光の示す方向の入口からこっそりと入っていく。「ちっ…ファントモンがいる…」イヴモンは忌々しげに舌打ちをし、眉をぐっと寄せた。
 イベントホールの中は子供たちの泣き声が反響していた。大人たちの悲鳴も反響していた。栞は、ぞわりと、また黒い感情が渦巻くのを感じた。


「…栞、あれ」
「え?…あ…ミミ、ちゃん、?」
「うん、ミミ、だね。パルモンはいないみたいだ」


 緩やかなウェーブを持つ髪を栞は知っていた。いつも傍にいる筈のパルモンの姿はなく、佇む背中は悲しみにくれていた。
 「ミミちゃん、!」バケモンたちに気づかれぬよう、ひっそりと名を呼ぶ。「栞、さん?」ミミは振り向いた。そこにいたのは、やはり、栞で。 ミミは、抑えていた感情が爆発した。


「栞さん、!」
「ミミちゃん…良かった、無事だったんだね…」
「でも、栞さん、どうして…?ここにきたら危ないわ、ここには――」


 その時、「離せ!」という少女の声が聞こえた。このような状況であっても恐怖を感じていない凛とした声だと思った。栞とミミははっとして振り向いた。窓辺の近く、おそらく自分たちと同じくらいの年の女の子がファントモンが捕まえていた。女の子は可愛らしい顔立ちをしていた。
 一瞬にして、目の前がゆらいだ。


「翼ッ!」


 捉えられたその子の保護者の人だろうか。十代後半くらいの綺麗な黒髪を持った女の人が少女に近づこうとして、バケモンに拘束される。
 「ッ!」栞は思わず飛び出そうとするが、「ダメよッ!」「我慢して!」イヴモンとミミに止められ、出て行けない。


「くそっ、なんだよ!」


 乱雑な言葉遣いの少女は、愛らしい顔を歪め、きっとファントモンを睨みつけていた。ファントモンの顔は楽しそうに歪む、人を傷つけるのが楽しくて、仕方がないと言うように。


「お前が八人目か?―それとも守人か?」
「離せよ!なんだよ、それ!僕は違う!!」
「しかしお前からは僅かな光の力を感じる」

「翼!っ、離しなさい!――翼!!」

「玲っ!―僕じゃないってば!離せ、っ痛い!!」


 目の前がゆがんでいくのが分かった。―どうして、自分はただ見ているだけなのか。関係のない人たちが傷つく姿なんて、見たくなかった。自分のせいで、誰かが傷つく姿なんて。


「栞さん、ダメよ、絶対だめ!」


 ミミの小さな手が、栞の腕を掴む。彼女なりに、大切な仲間を守ろうと必死だった。今は守ってくれるパートナーがいないから、自分の手で。
 そんなミミの気持ちは分かる。散々、言われてきた言葉もある。自分が捕まってしまったら全てが終わってしまうのだ。今までの戦いが無駄になるかもしれない。ここで黙って、隠れ通すことが必要だということも、分かる。

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