「私のことは、どこへでも連れていってかまわない。でも、もし、もしこれ以上仲間を―みんなを傷つけるつもりなら、私はあなたたちを許しはしないから」


 見た目は、たかだか小学高学年の少女だった。どちらかと言えば大人しそうな容姿で、あまり派手なタイプではない。クラスで言うならば、決まった掟には黙って従うタイプ。
 しかし、目の前の少女は、高らかに言い放つ。大人顔負けの語調は、まだあどけなさを残しているが、それすらも感じさせないほど強い意思を持っていた。
 キリリと引き締まる大きな灰色の瞳は、うっすらと赤みを帯びていた。


「その人を離して」


 先ほどまでの焦った様子など微塵も感じられない。少女は、気高く、恐らく気位が高い。この、バケモノたちすら一掃するほどに。
 証拠に、自分を捕まえていたはずのうでは緩み、少しだけ怯えた表情になっていたのだ。先ほどまで勝ち誇った顔をしていたというのに。


「ここにいる人たちに手出しはしないで」


 一歩、少女が前に出る。その度に、バケモノたちは、恐れおののく。まるで、王が道を歩くように、さっと脇に引いていく従者のようだ。


「その人を、離して」


 再度、同じ言葉を言い放つ。そう、年も変わらない少女だというのに、やはり気高かった。
 自分を捉えていた手は完全に離され、少女が自分の前に立った。くしゃりと、顔がゆがんだ。年相応の、それでも、大人びた表情だと思った。


「――ごめんなさい」
「お、ま、え…」


 ただ、一言。彼女は、呟いた。少しだけ、泣きそうな顔をして、自分を見つめた。赤みがかった大きな灰色の瞳が、自分をうつす。誰もが侵入できない空間だとすら思った。油断すれば、空間に食われてしまう、飲み込まれてしまう。
 不意に自分を見つめていた少女の瞳がはずれ、キッとバケモノを睨み据えた。それは、自分を捕まえていたあの大きな鎌を持ったバケモノだった。


「さあ、私をヴァンデモンのところへ連れてって。その間、ここにいる人たちに手出しをすることは許さない」
「守…人、」
「私の言うこと、聞けるよね」


 聞き返しているというのに、有無を言わさぬ語尾だった。ファントモンは、ただ頷くことしかままならない。何かに言葉を支配されているように、心臓が冷たく凍る。これが、守人の持ち得る『闇の力』なのか。


「ヴァ、ヴァンデモン様の元まで、お連れしよう。あとのことは任せたぞ」


 声はだいぶ上ずっていたが、手下のバケモンたちに命を下し、ファントモンは栞の手を掴んで浮かび上がった。


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