目が、あったのは、あの蒼い瞳だった。全てを知っていたかのように、静かに曇るあの眼に、栞は少しだけ泣きそうになる。―いつだってそばにいた。いつだって、守ってくれていた。でも自分はそれをうらぎった。
「栞さんッ、!!」
パジャマ姿でも随分愛らしい少女の声が聞こえる。泣きそうな顔だったのは、彼女も同じだった。
「ミミちゃん、」
純粋で、優しい女の子。時にはわがままを言うけれど、でも誰よりも暖い心を持っている。誰もが彼女の明るさに救われた。
ミミは必死に手を伸ばす。どうしてさっき止められなかったんだろう。どうしてこの手は離してしまったんだろう。大好きな栞が、連れて行かれてしまうというのに!
あの人は、優しい人だから、自分を犠牲にしたって誰かを守ろうとする。そんなこと、分かっていたのに。
「栞、さん!!ダメよ、行かないでッ!!」
絹を劈くような少女の声、悲鳴に似ていて聞いていると悲しくなる。ミミは泣いていた。ミミの泣く顔なんて、見たくなかったのに。栞は、ちょっとだけ泣きそうな顔を崩した。「ごめんね」 守ろうとしてくれたのに、止めようとしてくれたのに。手放してしまって。
「栞、さん、!」
「待ってるから」
「えッ、?」
「助けに来てくれるの、待ってるから」
身勝手なお願いだ。自分から捕まっておいて、自分から待ってるなんて。 でも、目の前で泣き崩れるミミは、必死に大きく何度も頷いてくれた。
「絶対、助けに行くから!!だから、だから!!待ってて―――!!」
ふっとファントモンと栞の気配が消える。彼女はヴァンデモンのもとへと連れて行かれるのだろう。その果てに待つのは闇か光か。
「ミミ、ありがとう…」
「イヴ、モン、でも、でもあたし、助けられなかった…!!」
「僕はね、きっとわかってた。あの子は―あの人は、目の前で傷ついている何かを見捨てられない。自分を犠牲にしても」
遠くを見つめる蒼い瞳は、いつものように冷静で、それでも少しだけ悲しみを宿していた。
「いつだって僕の手の届かないところで、無茶をするんだ」
いつだってそう。いつだって、気づいたときにはもう遅くて。
守りたかったから、大好きだから、時には厳しいことだっていった。本当は―知らないほうがよかったんだ。何かを守ることなんて、知らないでいられたら、きっと彼女は無事でいた。
でも、それは無理なんだろうな。だって栞は、優しい子だから。あの人は、暖かい人だから。 きっと、ずっと、いつだってそう。
守りたい時には、もう、いないんだ。
17/07/31 訂正
12/09/11
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