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夏だというのに何故か寒い。半袖半ズボンだからか?いや、だからといって8月といえば真夏日、当たり前の格好だ。―この部屋は冷房が効きすぎているのだろうか。真っ暗な視界の中で、一馬は自分自身を抱きしめて、ゆっくりとさすった。この部屋の中に閉じ込められて、どれくらいの時間が過ぎただろう。
英士は、結人は無事だったろうか。まさかあのあと連れていかれたなんてことはないよな?父さんと母さんは? 栞は?ぐるぐると脳内を回る考えは、どんどんとネガティブな方向へと進んでいった。
( ここはどこなんだ?俺は一体どこに連れてこられたんだ )
たかだか小学五年生の少年にはついていけない話だった。それでも、彼らが一様に話す『守人』に関係しているのは、彼が知っている『栞』なのだろう。
――確実に、悪意を持っていた。
( くそっ…わけわかんねえ… )
頭をぐしゃぐしゃに掻き乱し、荒い息を吐き出した。
―――…栞を頼むな。
志貴の声が脳内に響く。あの日、いなくなったイトコに頼むといわれた。一馬は彼をとても尊敬していたから、それを承知した。けれどそれがなくても、一馬は彼女を放ってなどおけなかった。泣き虫で、甘えん坊で、それでも暖かい彼女を、放っておけなかった。
( ――…守らなきゃ、アイツを )
唇を噛みしめ、拳を強く握り締めた。頼むって言われた。だけどそれだけじゃない。
「これは俺の、意志だ――」
胸に芽生えた思いは、小さな種かもしれない。それでもやがて大きく美しい花を咲かせる。―俺は負けない。一馬の瞳に浮かぶ闘志は、強敵と遭遇した時と類似していた。
「行かなきゃ」
瞬間、何故だろうか。遠く離れているはずの、栞の気配を感じた。
「とはいえ、ここから出れねえし…」
暗く閉ざされた小さな部屋の中にドアは一つしかない。おそらく、ここは倉庫かどこかだろう。厳重に鍵が閉められた部屋、ドアノブを何度回しても開く気配はなかった。
「くそっ、」
本当――役に立たない。思わずドン、と扉を拳で叩きつけた。
今でもどこかで泣いてるかもしれないアイツを、守りたい。栞を守りたい、守らきゃいけないんだ。――これじゃ、ただの足かせでしかない。
考えるのは英士の方がきっと得意だ。―まあ自分だって結人よりは得意かもしれないが、ゲームメイクするのはいつも英士だった。
( …こういうとき、英士ならどうする?…結人なら?――志貴兄なら? )
眉を寄せて頭を抱えた。出られなければ何も意味がないのに。
―――…まったくしょうがねーな。…少しだけ、貸してやるよ。
不意に声が響き渡る。「え――?」聞き覚えのある声に、思わず目を見開けば、瞬間ガチャリとドアが開いた。―ドアに体重をかけていたせいか、バランスを崩した一馬はそのままの勢いで廊下に出れた。
「なっ、だ、え!?ドア、鍵かかってて、開かなかったのに…!?」
戸惑う思考を振りかぶって、前を見据えた。もう、何が出ても驚くまいと決めた。この超常現象に、常識など通用しないのだろう。
何はともあれ、出ることができたのだ。このままここにいる意味はないし理由もない。――栞を、探さなければ。まず第一に、狙われているであろう大切な『妹』を。 一馬は自分がこんなにも度胸があるとは思っていなかったけれど、今の状況をサッカーの試合と例えてみた。そうすれば――少しでも大胆になれる気がした。
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