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「そろそろ二時間だ…」


 時計は九時三十分を示していた。太一との約束の時間である二時間が経過する。「太一のやつ…」苦渋を浮かべ、デジヴァイスを握り締めた。傍らでは苦痛の表情を浮かべたヒカリが座り込んでしまっている。それをちらりと見て、更にヤマトは眉を寄せた。


「ヤマトー!ヒカリちゃーん!!」


 その時だった。聞き覚えのある声が、倉庫に響いた。声を追って外に出れば、バードラモンが空から舞いおりてくる。――空だ!思わずヤマトの表情が和らいだ。状況は何も変わっていないし、むしろ太一が戻ってこないのだから悪化しているだろうに、やはり仲間の存在は大きかった。


「空!!」
「ヤマト!!ここだって太一に聞いたの!みんなビックサイトにつかまっているのよ」
「ビックサイトか…」

「ケッケッケ…」


 反芻するヤマトに、どこか低く、どこか機械のように冷たい笑い声がかぶさる。ハッとヤマトと空が振り返れば、モノレール線の上には、大きな鎌を構えたデジモンがにやりと笑ってこちらを見ていた。紅いマントに隠れた水色の鋭利な瞳が二人を射抜いた。


「八人目を探さずとも、お前ら二人を殺せば同じこと。ここで果てるがよい!!――いでよ!!」


 ファントモンの声とともに、地鳴りがおこる。地面が揺れ、三人の前が割れた。突き破って出てきたのは獰猛な体をしたタスクモンだった。更にファントモンは宙で鎌を振った。緑色に時空がゆがみ、そこからは残忍なスナイモンが現れた。


「キャアっ!!」
「――ガブモン!!」


 すぐさまガブモンは進化し、ガルルモンへと形態をかえる。――ヒカリはただ、恐怖を感じながら、それを見ていることしかできなかった。
 対峙する4匹のデジモン。同じ成熟期だというのに、彼らの方がパワーで勝る。河の中に落ちたガルルモンの方へと一瞬気がそれたヤマトに向かって、ファントモンは鎖を放った。「っ」それは迷うことなくヤマトに絡まり、彼は身動きできない状態になった。にやりと再びファントモンは笑う。鎌を構え、ファントモン自らがヤマトに突撃した。持ち前の反射神経でぎりぎりのところでそれを交わしたが、バランスを崩して倒れ込む。ファントモンの背後を狙った空が木の棒で襲い掛かるも、ファントモンはお構いなしだという状態でくるりと振り返り、空に切りかかる。「きゃあッ!!」木の棒で防いだが、やはり、「空ァ!!」バランスを崩して倒れてしまった。――そんな光景を、見ているだけしかできない。


「バードラモン超進化ァ!――ガルダモン!!」


 完全体になろうとも、変わらなかった。スナイモンの攻撃を受けたガルダモンの体はビルへと沈む。倒れ込む空、鎖に縛られ身動きもとれず苦しむヤマト、攻撃を受け続けるガルルモン―――「おねがい…」――自分のせいで――「……ねが、い」――誰かが傷つくなんて――「おねが、い」――いやだ…!――「もうやめて―――!!」強く心から叫んだ。小さな光が、大きな勇気を手にした。


「私が―私が、八人目だから」


 泣きそうになるのをぐっとこらえる。自分のせいでどれだけの人が悲しい思いをしたんだろう。お兄ちゃんは危険な目に合ってるかもしれない、お母さんも、お父さんも。――テイルモンも。


「どこにでもついていくからもうみんなを傷つけるのはやめて…っ」
「良い心がけだ。よかろう」


 ファントモンが鎌を一振りする。彼らを苦しめていたデジモンたちが、戻っていった。しかしそれだけでは済まない。ヤマトは酸素を求めながら、焦燥感にかられる。このままでは――連れていかれてしまう。大きく目を見開いて何とか動こうと足に神経を集中させるも、酸素が足りない頭が指令を出さない。


「…ありがとう」


 ヒカリはつぶやいた。――それは誰に対しての言葉だったのだろうか。
 空は首を何度も横に振る。「だめよ、だめよ、ヒカリちゃん!!」しかしその声はむなしく消えていく。ヒカリの体が宙に浮き――連れていかれる。


「っ行っちゃだめだ!!」
「ヒカリちゃーん!!!」


 声は届かない。――約束したのに。太一と。守るって約束したのに。絶望に染まる彼らをあざ笑うように、ファントモンは告げた。


「八人目は手に入れた。―守人も手に入れた。これでお前らに勝機はない!」
「もり、びと…だって!? ――栞を!?」
「なんで、栞はお台場にはいないはず…!!」
「お優しい守人は、この八人目と同じように、自ら名乗り出た。哀れな人間どもを守るためにな!」


 高笑いをしながらフジテレビの方へと消えていく姿を、ただ見送ることしかできなかった。―それは絶望でしかない。空はすべての力が抜けていくのを感じた。ぺたりと地面に座り込み、やけに高鳴り続ける心臓をつかんだ。「うそよ、うそ…」言葉で否定しても、分かってしまった。――栞は、守るだろう。それを使命だとして。栞は、見過ごせないだろう。誰よりも泣き虫で、誰よりも臆病なあの子は、――誰よりも優しいのだから。


17/07/31 訂正
13/07/09

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