112 ワンデイ・サーカス




 ミミの体に突き刺さることのなかった、その短剣は、彼女を守るために勇気を振り絞って飛び出した小さなデジモンへと突き刺さっていた。


「あ…ああ…チューモン…しっかりして…!!」


 戸惑うような、ミミの声が妙に耳に残っていた。短剣はチューモンの体に突き刺さった瞬間に淡い粒子となり消え去ったから、もう残っていなかった。
 大好きなミミに抱きしめられても、チューモンにはもう笑顔を浮かべるだけの力は残されていなかった。重たい瞼を持ち上げ、それでも一生懸命、ミミの顔を見つめる。荒い息を繰り返し、必死に、何かを伝えようと、口を開けた。


「ミミ…ちゃ、ん…。今、度…生まれ、変わったら…デート…し、て……」


 もしも、生まれ変われたならば。
 そう、小さな約束の言葉を告げ、小さな命は、無残にも、あっけなく、データとして砕け散る。淡い光の粒子は、風に運ばれていった。

 目の前が黒から、赤へと変わる。

 それは己の中の感情が、恐怖から、怒りや憎しみにとらわれていくからだ。あちらで自分たちの帰りを待つ家族に残したのだから、もう栞の胸元に赤い勾玉のペンダントは残されていない。それでも彼女は無意識に胸元を掴んだ。悲しみよりも憎しみが溢れる。―そんな負の感情で、どうにかなってしまいそうだった。


「愚かなデジモンですね…そんなに死に急ぐことはないでしょうに」
「クソォ…!!お前たち絶対に許さねーぞ!!!」


 いとも簡単に命を奪う、その行為。失くした命を悼むものをあざ笑う、その行為。全てが太一の神経を逆なでする。だが怒りに満ちた彼の声を受けても、ダークマスターズたちは諸共せず、ただ、嘲笑を浮かべるだけだった。


「許さない…絶対に…ゆるさない…っ」


 ぽつり、ぽつりとつぶやかれる声に、ピエモンは視線をめぐらせる。それは先ほど命を奪おうとした少女の傍らに膝をついた小さな秩序から発せられている。彼女を取り巻く空気が先ほどとは打って変わって、闇の力に満ちていて、思わず口角があがる。


「…なるほど。やはり、選ばれし子供たち、一人一人を終わらせてから、守人を手にした方がよさそうですねえ。いい具合に、闇へと成長していく。…さて、次は――」

「ピットボム!!!」


 どこからともなく飛んできた爆弾が、再び選ばれし子供たちの命を奪おうと動いたダークマスターズの目の前で爆発した。凄まじい威力の爆発は、彼らの視覚と聴力を奪い、彼らの動きを止めた。たった一瞬の隙だった。彼らが気づいたとき、もうすでにそこに子供たちの姿はなかった。

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