「夜なの…?」
「みたいだな…」


 森の中だから余計にそう感じたのかもしれないが、日中であれば差し込むはずの光を見つけることができなかった。空は太陽を探そうと、つい、と顔をあげ、そして驚愕する。―なんだ、あれは。


「みんな、アレ!」


 彼女の声に、そろって子供たちは首を持ち上げ、天空を見上げた。そして、同じように驚愕する。―そこには、見覚えのある地形が浮かび上がっていた。


「北海道!?」
「地球なのか!?」
「地球からデジモン世界が見えたように、こちらからも地球が見えるようになっているんですよ」


 冷静に分析した光子郎の言葉は正しく思えた。「繋がってしまった以上、干渉してしまうのが節理…」栞は無意識のうちにポツリと言葉を漏らす。その顔が悲壮に満ちていて、誰も何も言えなかった。
 ふたつの世界は、つながっていた。


( 違和感が…ぬぐえない )


 自身を抱きしめて、再びあたりを見回した。―とても静かだった。まるで息づいていたすべてが絶えてしまったような静けさが渦巻いている。それは違和感となって、栞の中に芽生えた。
 この世界に再び降り立った瞬間、確かに自分は、いない、と感じた。この世界を守護するものがいない。と同時に、時間が進んだ今なら分かる要素が増えて、沈黙する。安寧を望んだものすらも、いないと感じた。


「うわあ!?」


 と、その時だった。
 不意に丈から悲鳴があがり、栞は思考を中断して、慌てて声のする方を振り返った。しかしそこに丈の姿はない。急いであたりを見回せば、必死に崖にしがみついているではないか。その瞬間は見逃したが、もしかしたら悪意あるものにやられたのでは?子供たちの目線が鋭くなった。


「丈さん!」
「敵か!?」


 デジモンたちはこのままでは分が悪いと次々に進化を遂げ、臨戦態勢に入った。
 「待って!」優しい声がかかったのは、デジモンたちが丈を襲った何かに向かったときだった。小さなヒカリはデジモンたちの間を走り抜け、『何か』に向かって優しく微笑みかけた。「怖くない、怖くないのよ」その笑顔は、まさしく名前そのものを現す。だからだろうか。栞はその穏やかな声に、笑顔に、胸に何かが芽生えるのを感じた。


「何もしないから、出ておいで」


 その穏やかな声に胸を撃たれたのは栞だけではなかったようだ。おそるおそる草むらをかき分け、一匹のネズミに似たデジモンが姿を現した。そのデジモンはひどく憔悴しきった様子で、その場にいた栞に目をとめ、「も、りび、と、?」と呼んだと同時に倒れこんでしまった。思わず栞は駆け寄り、その小さな体を抱き起す。
 「あなたチューモンじゃない!」栞の腕の中で喘鳴を漏らすそのネズミのようなデジモンの姿を見て、驚いたように声をあげたのはパルモンだった。


「ほんとだ!ファイル島にいたチューモンだわ!」
「ミミちゃん…?パルモン…?」


 活発な少女の声に聞き覚えがあったのだろうか、チューモンはゆるゆると目を開け、安堵したように頬を緩めた。その頬には無数の傷跡があり、栞は胸が苦しくなった。頬だけではない。よく見れば体中どこかしこもボロボロではないか。


「ひどい、どうして、こんな…」


 よほど辛い思いをしたようだ。ミミやパルモンといった見知った顔を見てホッと目を閉じ、大きく息を吸い込む。チューモンは栞の腕にすり寄って、ぽろりと一粒、涙をこぼした。

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