★ ★ ★
「ここはどこだ…?」
「足元は砂よ」
「砂漠かもしれない」
「あっ、潮の香りがする…」
「浜辺?」
「海だ!」
結界が子供たちを誘った先で、子どもたちはそろそろと辺りを見回した。視界は霧のせいで悪いため見通しが悪く、辺りの様子はうかがえなかった。しかし鼻をツンと掠める潮の香りや潮騒、足元をまとわりつく砂のおかげで、彼らがたどり着いた場所が海岸であると知れた。
(…最低だ)
腫れぼったい瞼が恥ずかしい。だがまるで幼子のように泣きじゃくったことはこの際大したことではなかった。それよりも大切な親友に八つ当たりのような暴言を吐いたことが、冷静になってきた栞を苦しめた。イヴモンを抱く手に力をこめ、足元をまとわりつく砂をじっと見つめた。嫌な感情ばかりが胸のうちを支配していくようで、気落ちしていく。
空も嫌な思いをしただろう。上目気味に前に座り込む空を見やれば、やがてその視線に気づいたのか、それとも同じように栞を気にして振り返ったのか分からないが、少し眉尻を下げて、彼女が打った頬に触れた。
「ごめんね、痛かったよね」
空は何も悪くないのに。まるで空だけが悪いように、彼女自身は表情を歪める。―分かっていたじゃないか、武之内空という少女はそういう人間なのだ。母性に富み、愛情深い。
栞はふるふる、と小さく首を横に振った。空は悪くない、とか細い声で告げる。
「だったら栞だって悪くないわ。あれが『貴方』の気持ちじゃないことくらいわかってる。私は、『栞』のこと、分かってるもの」
「うん、…うん」
きっぱりと告げる声は普段と変わらず溌剌としていて、耳に溶け込んでいく。泣きそうに歪められた頬を包んで、空は笑う。何度この笑顔に励まされ、助けられただろう。もしかすればこの先に待つのは絶望なのかもしれないが、それでも空がいてくれれば栞はきっと救われるのだろう。
「なんだか明るくなってきたみたい」
「霧が晴れてく…」
しばらくして霧は晴れていき、やはり彼女たちがいたところは砂浜のある海岸だということが分かる。そこで光子郎ははた、と目を見張った。
「ここ…なんだか来たことがある気がします。―あっ」
そして目についた転がるいくつかの電話ボックスを見て、光子郎は声をあげた。子どもたちの視線が光子郎の視線をなぞり、そちらへ向けられ、同じように声をあげた。押し込められた記憶が子どもたちの頭の中でノックをし、扉を開けた。
「あの時の電話ボックス!」
「そうだ、ここは俺たちが初めてデジモンと出会って旅をしたファイル島の海岸だ!」
ファイル島―それは彼女たちがこのデジタルワールドに初めて訪れた時に降り立った島で、更にいえばクワガーモンに襲われて逃げた先でたどり着いた場所がこの砂浜になる。子どもたちにとって、いな、それ以上に太一にとっては思い出が深い場所だった。何せこの場所で初めてアグモンはグレイモンへと進化を遂げたのだから。いわば始まりの地点であると言っても過言ではなかった。
back next