114 朝焼けに染まる棺
ひょっこりと動いた影は、自慢の長い耳をひょこひょこと動かし、周囲の音を確認しては白い体を木陰に潜ませる。誰もいないことを悟ると、猛スピードで森の中を駆け抜けていった。
―見つかる前にたどり着かねば。
滅多に本気を出して走ることなどないものだから、彼の体力は既に底をついていたが、それでも彼は己の役割を知っているからこそ、ただひたすら走り続けていた。
目の前の強大な闇を照らし出す八つの光を求めて。
そしてこの世界の秩序に再び会うために。
★ ★ ★
「あ…あれは、蜃気楼?」
太陽がキラリと反射して視覚を遮る。背後に広がる海には今までなかった島が現れ、子どもたちは光の屈折によってできた蜃気楼を見た。
「うーん……ん?」
ぐるりと一周見渡す子供たちの視線が徐に砂浜へうつり、その砂浜にひとつの建物が建っているのが見え、思わずぎょっとする。
「あれは海の家だ!」
「ファイル島の海岸に海の家なんかあった?」
彼らの記憶の中にはなかった気がする。だがあまりにもそのあと色々なことが起こりすぎて記憶自体曖昧なものになっていることは否めない。首を傾げるタケルに同意するよう、だが困惑したように光子郎は言った。
「ファイル島の海岸に海の家があるんじゃなくて、ファイル島の海岸に出来た蜃気楼の中に海の家があるんですよ」
「ちゃいまっせ!ファイル島の海岸に、ほんもんの海の家があるんですわ!」
記憶の中のファイル島と、いま目にしている蜃気楼がごちゃ混ぜになって言い合いを始める。しかし太陽の日差しに慣れた視界に映るのはまさしく海の家そのものだった。
パラソルが立ったテーブルやかき氷と書かれた旗、おでんの看板、うきわが陳列された棚、イルカボート、自動販売機…。目に飛び込むものが子供たちの欲を掻きたてる。チリン、チリンと風鈴の音が涼やかに子供たちを誘った。まるで脳内に花火のように打ち上げられるおいしいラーメン、辛いカレーライス、冷えたジュースや甘いかき氷に思わずよだれが零れる。
「ラーメンだ!!」
そう声をあげる太一を筆頭に、子供たちは砂煙をあげ、突進するように海の家へと急いだ。ヴァンデモンとの闘いから間を空かずして始まってしまったダークマスターズとの闘いによって、思っていたより体力も精神も消耗していたらしく、本当に海の家なのか、それとも蜃気楼なのかはたまた罠なのかと判断することが難しかった。
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