「栞、行かナいの?」
「…おいしい話にはいつも裏があったから…」


 思い返せばいくつも裏切られてきた気がする。電話ボックスも、デビモンの城もパグモンの村も。いつだっておいしい話には罠が仕掛けられていた。それを思うと他の子どもたちのように素直に喜べない。ましてや今はダークマスターズが支配する世界なのである。
 神妙な面持ちで考え込む栞に、イヴモンは目の前をふよふよ左右に揺れてにこりと笑う。


「ソうだね、僕も怪しイと思うヨ」
「うん…やっぱりみんなに話して―」

「きゃあ!」


 ふと顔をあげ、他の子供たちに危険ではないかと諫言しようとしたとき、目の前でミミが丈に靴を踏まれ転倒したのが見え、慌てて駆け寄った。前を走る他の子どもたちはそれに気づかない様子で海の家に駆けこんでいくのが見える。


「ご、ごめん、ミミくん!」
「もう〜!」
「ミミちゃん、大丈夫…?」
「大丈夫。怪我はしてないわ」


 踏まれたことによりすっぽ抜けてしまった靴を受け取りながら、差し出しくれる栞の手を取り立ち上がる。視線を下に移すとスカートに砂がくっついてしまっていた。
 「もう〜!」ともう一度呟いて、くっついてしまった砂を払い始めたので、栞も習ってミミのスカートの砂を払ってあげた。


「何してんの!」
「早くしないと全部食べられちゃう!」
「えー!!」


 ゴマモンとパルモンの訴えに丈とミミは急いで海の家へと足を向けたが―「っ待って!」それより早く栞が二人の腕をつかんだ。


「栞さん!?」
「栞くん、一体どうし――」

「うわああああ!!」

「あの声は!?」
「みんなに何かあったんだ!!」


 突如、仲間たちの叫び声が栞たちのもとへと届いた。――やっぱり、罠だったのか。胸元を手繰り寄せると、栞は大急ぎで海の家へと向かった。そのあとを丈とミミたちが追いかけてくる。
 栞は目を見開いてその光景を見た。先ほどまで開いていたはずの出入り口は砂山で覆い尽くされていた。なんということだ。出入り口をふさがれてしまっていては、中の子供たちは袋のネズミではないか。


「これは…!」
「…シーっ!」


 声をあげそうになった丈を制し、ゴマモンはちらりと裏口の方へ視線を送る。彼の言おうとしている意図に気づいた彼らは忍び足で裏手へと回り、すだれの隙間から中を覗き込んだ。


「「うわあああ!」」
「ひどい…!」


 思わず飛び出た叫び声をお互いで押さえる。栞は己の手で口を覆った。
 彼らの目に飛び込んだ光景とは、砂まみれで意識もなく、ぐったりと四肢を投げ出している仲間たちの姿だった。争った形跡はどこにもなく、一方的にやられたところから推測するに不意を突かれたのだろう。敵の姿はないが、まだ近くにいるのだろう。
 不意に栞の中に言わずと知れた感情が沸き起こる。―怒りや憎しみ。いくら油断していたとはいえ、パ-トナーを持つデジモンたちを一方的にのせる実力の持ち主なのだとしたら、それはおそらく――。

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