「ハッハッハッ、よくやったぞアノマロカリモン!それでこそ我がディープセイバーズ暗黒軍団の一員!褒美を与えよう」
「わ〜い!アノマロカリモンっアノマロカリモン〜っと」


 栞は、拳を握りしめた。その声は嫌というほど覚えがある。――ダークマスターズの一員。海の支配者、メタルシードラモン。
 林の中で、子どもたちをあっさり捕えられたことに対し、彼は高笑いとともにアノマロカリモン―これが恐らく子供たちを罠にかけた張本人であろう―へと称賛と褒美の貝を贈っていた。この貝のために働いているのだというほどにアノマロカリモンの喜びぷりは相当なもので、もらってすぐに己の後ろ足で貝を割り、がっつき始めた。食べたら殻を放り投げ、また次の貝へ。そのうちの一つの殻が見事なまでに美しくゴマモンの頭へとホールインされた。「いたいっ」反射的に声が出る。


「ん…?」


 メタルシードラモンの目線が彼らの方へと向けられる。急いでパルモンはゴマモンの口を長い手でおさえつけ、子供たちは地べたへと見つからないように寝そべった。
 ―気のせいか。声が聞こえた気がしたが。とメタルシードラモンは危ぶみつつも、既に彼の意識は海の家の中に捕えてる子供たちへと向けられた。


「……そろそろ始末するか」


 メタルシードラモンが海の家へと移動を始めるに比例して、彼らもひっそりと見つからないように移動を始めた。
 あの海の家の中には選ばれし子供が8人、デジモンが8体いないのだから、ここにいる自分たちの存在が気づかれるのも時間の問題だ。ましてや彼らの狙いである栞がいないのだ。恐らく怒り狂って出てくるに違いない。


「…選ばれし子供たちは八人のはず。二人足りない。…そればかりか守人がいないではないか!」


 低く唸るようにつぶやくメタルシードラモンの額に、アノマロカリモンが食べた貝の殻が命中した。ぷちりと彼の中で何かが切れる音がして、咆哮するように「いつまで食っている!!残りの選ばれし子供たちと守人を捕まえろ!!!」と叫んだ。あまりの迫力にアノマロカリモンは食べていた貝を放り出して、辺りを見回した。ダークマスターズの一員であるメタルシードラモンの恐ろしさは部下である自分たちがよく知っているのだ。早く捕まえなければ何をされるか分かったものじゃない。きょろきょろとあたりを見回して―彼は非常に運がよかった。視界の端にピンクの布が動くのが見えた。アレだ!


「アノマロカリモーン!!」
「わああ!」


 見つかってしまった!
 丈を先頭に、ミミに手を取られて栞も走り出すが、砂に足を取られ、思うように走れない。スピードもアノマロカリモンの方が上だった。追いつかれたら今度こそ終わりだ。その恐怖心からか焦りが足にも伝わり、もつれて転んでしまった。
 ―もう終わりだ!目をつむって衝撃を待つも、それは訪れない。そろりと目を開けた丈が見たのは、同じように転んでしまったアノマロカリモンの姿だった。どうやら息が切れてしまったらしい。その隙を見て息を素早く整え彼らは猛ダッシュをした。同じように息を整えたアノマロカリモンも追いかけてくる。


「あっ…あそこ…っ」


 栞は息も絶え絶えになりながらだったが、ちょうど隠れられそうな岩を見つけ、急いで指さした。とりあえず息を落ち着かせたい。丈も気づいていたのだろう、すぐに頷いてその隙間に飛び込み、ミミと栞、デジモンたちも続いた。
 背後からは変わらずアノマロカリモンの近づいてくる音が聞こえた。


「も、もうだめ〜」
「た、戦うしかないか…!」
「分かった…!!」


 休む暇もなく立て続けに力を使っているデジモンたちの体力の限界は近い。尽きる前にやらねばなるまい。―音も声もしない。丈とゴマモンは大きく息を吸い込んで岩陰からこっそりアノマロカリモンを伺おうとするが、そこには誰もいなかった。360度見渡せどアノマロカリモンの姿はない。


「どうしたの〜…?」
「アノマロカリモンが…いない…」
「逃げていったんだ!」
「どこかに隠れてるんじゃないの?」


 目の前には不自然なほど大きな穴がある。おそらくその穴を掘ったのはアノマロカリモンで、ミミの言う通り、その穴を通じてどこかに隠れているに違いない。
 ―戦うしかないのだ。何せ己らだけなら逃げればいいが、彼らの背後には気絶している仲間たちがいる。彼らを助けなくては逃げるものも逃げられない。

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