115 それはひどく単純な、




 全神経が研ぎ澄まされているのは守人としての自覚の芽生えか。水の輪が広がるように、たくさんの音が拾えるようになった。そのことを彼女はまだ知らない。
 栞は走って荒くなった息を整えながら、そっと背後を振り返る。何かが落とされたような水飛沫の音が聞こえたのだ。それがすぐ近くで聞こえたから、メタルシードラモンが近くに迫っていたのかと勘違いしたようだった。振り返っても何もいない。水の音など誰一人とて聞いていないようで、自然と胸元を握りしめた。――人間ではなくなっていく感覚に陥るようで、ひどく恐怖する。


「栞?大丈夫?…顔色、悪いヨ」


 おもわず声をかけるほど、自分の血色は悪かったのだろうか。イヴモンは気遣ってくれ、上目気味に栞を見るも、つい視線を外してしまった。何もかも見透かす青い瞳がこわかった。


「…なんでもない。なんでもないよ」
「―僕にダけハ隠さナいでネ」


 強いて言えば心配をかけたくなかったということもあげられる。だから曖昧に笑って全てを笑みの後ろに隠そうとして、すぐにイヴモンの顔を見て後悔した。―すごく、悲しそうな顔をしていたから。


「メタルシードラモンも行っちゃったみたい」
「もう大丈夫だな」


 何とかメタルシードラモンの猛撃を振り切った子供たちは林の中に身を潜め、息を整える。自分たちが間に合わなかったらもう少しのところでまる焦げになっていたかと思うと、彼らの怪我がかすり傷程度で済んで良かったと心底思った。


「それが大丈夫でもなかったみたいなの」
「え?」
「そうなんだ」


 しかし彼らの思いとは裏腹に、ミミは深刻さを物語る声色でそっと溜息をついた。同様に丈は神妙そうに彼女の言葉に同意の意味を用いて頷く。


「どういうことなんだ?何があったんだ?」


 思わず太一は立ち上がった。


「アノマロカリモンに対してイッカクモンとトゲモンでは相手にならなかった。ズドモンとリリモンに進化してようやく勝てたんだ。メタルシードラモンと戦っても勝ち目は少ない」


 先ほどの戦闘を思い出して眉を顰める丈の真剣な言葉に対し、一瞬目を見開いてから太一は視線を逸らした。
 成長できたと思っていた。否、確実に冒険当初の頃に比べたら遙かに強くなっている。技術も、精神も。手ごたえは感じている。だからこそ今になってあの時犠牲になったピッコロモンの言葉の意味が理解できた。

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