(私が彼の死を望めば、データの破壊を望めば、)
栞は唇を噛みしめ、メタルシードラモンを睨むように見上げる。ヴァンデモンの甘言が、耳元で囁かれた。
(全てが――終わる…)
海の中で拳を握りしめた。ぬれているのは海の中でだからだが、それ以上に違う何かがあふれ出そうとしていた。――黒い何かが。
もしそれをすることで自分から人としての何かが欠けたとしても、今ここで仲間たちを守れるのはそれしかない、そう自分に言い聞かせる。そっと握りしめたこぶしを開いた。黒い何かが、顔をのぞかせた。
兄の笑顔が、脳裏をよぎる。
―――…俺がお前を守るから。お前はもう何も考えなくていい。何もしなくていいんだ。
大きな手に包み込まれて、優しい愛情に守られて、それで満足していた。
「何も…しなくていいなんて……だめだ。…私が……みんなを……」
黒い何かがふよふよと浮上して、目の前に訪れる。ずるりと背中を這うのは同じような黒い感情。――守るために、犠牲にすると、決めた。
拳を握りしめる。顔をあげる。海水でぺったりとくっついた髪を払う。決意した。
――そのときだった。
子どもたちの下、つまり海中に大きな影が見えた。メタルシードラモンは目を見開く。その大きな影はゆらり、ゆらりと速度をあげながらメタルシードラモンの手前まできた。大きなひれが、波を起こす。
「ホエーモン!!!」
虚を突かれたメタルシードラモンは、されるがままホエーモンの体に体当たりを喰らわされ、思わずよろめいた。もう一度、ありったけの力を込めて頭突きを喰らわす。さすがのメタルシードラモンも耐え切れず、海の中へと倒れこんだ。
その隙をついてホエーモンは大きく口を開き、子供たちをその体内の中へと導いた。
「助かったぞ!ホエーモンが体内で守ってくれる!」
ずるりと背を這う黒い感情は消え去った。拳から生まれた黒い何かも海の中へと消えていった。栞はハッと肩を震わせた。ホエーモンがきてくれなかったら、自分は、そのまま。
子供たちが歓喜にあふれる中、栞は泣きそうな顔をして俯いていた。イヴモンは傍による。同じように泣きそうな顔をして。
「わたし…」
「…大丈夫。大丈夫だヨ、栞」
微笑んだ。真っ白な体の彼は、真っ黒の感情とは正反対で、だから彼を見ているだけで救われる気がした。
★ ★ ★
メタルシードラモンが起き上がったのは、既にホエーモンの姿が海中へと消えていく時だった。これほどにない屈辱。メタルシードラモンの表情がゆがむ。
「選ばれし子供たちとそのデジモンたち…守人…逃がしはせん!!」
16/02/09
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