「潜ったことで気圧が変化してたんですね」
「ありがとう、ホエーモン」
子どもたちが安心したようにホエーモンに感謝したのを見て、栞も幾分か頬を緩めたのだが――ぶぅぅん、という音が遠くから聞こえ、眉をよせた。先ほどの子供たちと同じように耳に違和感を感じるが、それは気圧の変化のせいではなく、妙な音が聞こえたからだ。
上空を見上げてもそこはただのホエーモンの胎内だというのに、栞は仰ぎ見た。黒い渦が巻いているように、彼女の瞳にはフィルターがかって見えた。モーターの音によく似ていた。それが段々とこちらへ向かってきている。目を、閉じてみる。一面、あお。まるで光子郎がケーブルを繋いでホエーモンの資格情報を経由して見せてくれたパソコンの映像のように、流れこんでくる。
「……近づいてきてる…ハンギョモンが」
やけに緊張したような声に、子供たちは栞を見た。子どもたちにはまだその音は聞こえていないし、ホエーモンの視覚にも映っていないのだからもちろんパソコンにも映し出されるわけもなく、戸惑ったような表情だった。
「え?」
「…なんの音?」
だが、徐々に耳を襲う妙な音に気づいた。
「どうしたの…?」
ミミにぐるぐる回されて目を回していたパルモンが青ざめた顔をあげる。ふらふらと立ち上がり、声をあげるパルモンに「しずかに!」と光子郎の鋭い声が飛ぶ。段々と近づいてきたその音に、ようやく子どもたちも気づいたようだった。不安げな表情を隠さないまま、ホエーモンも子供たちも息を潜めて、その不穏な音が遠ざかるのを待った。ぶぅぅ、ん、とホエーモンの中に響き渡る音が、聞こえなくなったのを感じて、子供たちはほっと息をついた。当面の危機は回避されたようだった。
「通り過ぎたみたいだね」
「まだ安心はできません。暫く静かにしていましょう」
「……ッダメ、くる!」
やはり、緊張を隠せない声色が響く。
がくん、と大きくホエーモンの体が揺れたのは、その時だった。
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