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悠々と海水を泳ぐホエーモンの周りを、キラキラとした結晶が舞い散っていくのを、女の子たちは「きれい!」とうっとりと見つめていた。
「マリンスノー…」
ぽつりと呟いたのは栞だった。
「マリンスノー?」
「たぶん…だけど…。海に降る雪、だからマリンスノー。深海でしか見られないんだって」
「幻想的ね。とっても綺麗だわ!」
「マリンスノー、聞いたことがあります。確かプランクトンの排出物、死骸、またはそれらが分解されたものなんですよね」
死骸、と聞いた瞬間、ミミの顔は歪んだ。光子郎の解説は聞かなかった方がよかったかもしれない。
「綺麗だネ」
「…うん」
とても心が凪いで行く。ずっとこのままであればいいのに。そう願わずにはいられなかった。
そして映像が進んでいく中で、彼らは光子郎やホエーモンの言葉通り、横穴らしき場所を見つけた。わ、っと歓声に沸く中、パルモンは「あたしたち、助かったのね!」と立ち上がる。同様に、彼女のパートナーであるミミも喜んで立ち上がった。「やったあ!!」その声は嬉しさそのもので、本来ならパルモンだってミミの喜びを目の当たりにしたら嬉しいはずなのに、何故か悪寒が走って、冷や汗が出る。恐る恐るミミの方を振り返ってみれば、彼女は満面の笑みを携えて、パルモンへと両手を伸ばしていた。―悪夢、ふたたび―。ぞ、っとパルモンの背中を冷たい空気が走り抜け、彼女は一歩後退した。
その時だった。
がたん!と先ほどの襲撃の時とはくらべものにならない揺れが彼らを襲った。
失念していた。マリンスノーに気を取られ、散じていたがゆえに、近づいてくる敵の気配を読み取ることができなかった。愕然と立ち尽くす栞は、再度の揺れで耐え切れず座り込んだ。やはり、先ほどとはくらべものにならない――ともすれば、今度の敵は――。つ、と頬を汗が伝った。
「みなさん、気を付けてください!メタルシードラモンです!」
嫌なときほどの予感ほど、よくあたるものだった。
猛スピードで追いかけてくるメタルシードラモンを振り切る方法など皆無に等しいが、海底の中で、しかも子供たちを守りながらでは、各上の相手と戦うことは即ち死を意味する。少しの可能性があるなら。ホエーモンは光子郎に示された横穴へと勇んで飛び込んだ。そこは狭い穴で、巨体を持つホエーモンが通り抜けることは本来なら出来そうもないことだった。だがホエーモンには使命がある。ぶつかる壁を身体で削りながら、前へ前へと進んでいった。メタルシードラモンはするりとした体を持つ龍だ。特別、苦労もなくそのあとを追いかけてきた。
栞はひたすら衝撃に耐えていた。ホエーモンの身を案じながら、敵に追いつかれないことを願いながら。
「……お願い……」
自然は瞳は願いを求め、指は祈りを込めてささげられる。その瞬間、まるで、マリンスノーのような神秘の輝きを持つベールがホエーモンの体を包み込んだ。
ぐん、と引っ張り上げられるように、ホエーモンのスピードは増す。今まで彼の体に傷を作っていた岩肌が、まるで豆腐のように柔らかくなる。―守られている。ほかでもない、守人の願いによって、祈りによって。それを肌で感じたから、ホエーモンは進んでいく。温かさが、まるで祝福するかのように降り注ぐ。彼は進んでいく先に、光を見つけた。
彼女の祈りは、おそらく本来を力でささげられたものではなかった。ここはもう自分の世界とは言えないほど強い力に作用され、捻じ曲げられてしまっているのだから。それでも祈らずにはいられなかった。願わずにはいられなかった。身を挺して守ってくれるホエーモンを、守らずにはいられなかった。それが、大した役に立たないと分かっていながら。
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