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 ザザン、ザザン―静かな潮騒が耳を掠める。振り切れたというわけではないだろうが、栞の願いが働いたためか、メタルシードラモンに捕まることなく海上に出ることができた。
 まぶしい太陽が彼らを照らす。太陽の光を浴びたのは何時間ぶりだろう。大した時間は経っていないだろうが、やはり、地上に住むものにとって太陽とは大きい存在だと実感した。


「まぶしい〜!」
「空気が新鮮だわ!」
「ああ、太陽の光がこんなに気持ちいいものだったんなんて」


 子どもたちの顔にはそれぞれ笑みが浮かんでいる。もちろん、メタルシードラモンの脅威を忘れたわけではないが、それ以上の喜びに襲われているのだ、仕方ないことだろう。さわやかな海風に乗り、子供たちの和やかな笑い声がかけていく。それこそ、望んだ平穏な時間だというのに。
 ぞわりと、背中を何かが駆け抜けていき、心臓が冷え切る。栞はその感覚で、メタルシードラモンの存在を察知した。急いで振り返ったその先にいたのは――。


「何がそんなに面白いのか」


 地を這うような低い声が、彼らの耳元でざわつく。一瞬にして彼らの心臓が暴れだす。笑顔だった表情は一転、恐怖で塗りたくられていった。
 水飛沫とともに鋼鉄の竜が上昇する。鋭い赤い視線は彼らを射抜いた。


「メタルシードラモン!!」
「どうして!!」


 振り切った――とは思わなかった。だが猶予はあると思っていた。栞が、祈っていたのだから。彼女の願いはこの世の理。叶わない願いなど、あるはずもない。
 栞は苦痛に満ちた表情でメタルシードラモンを見つめる。この世界は、もう自分の願いをかなえてくれない。戻ってきたこの地に足を踏み入れた時から知っていた。闇で覆われた大地。蔓延る強い闇の力。大地は病んでいる。秩序の願いを聞き取ることができないほどに。


「今の私たちに守人の力など通用しない。ここまでだ、選ばれし子供たち!!」
「クソォ!」


 悔し気に吐き出された言の葉。もう、ここまでなのか。


「…みなさん、掴まっていてください」


 す、と彼らの中に落とされた声通り、子供たちはホエーモンの背中にしがみついた。ぐるぐると彼はその場を何周も回転し始める。「タイダルウェーブ!」幾重にも波紋が広がり、やがて大きな渦となって、メタルシードラモンたちを錯乱する。


「太一!」
「ああ!お前に任せる!―アグモンが引きつけているうちに俺たちは岸へ渡り、態勢を整えよう!」
「分かった!」


 共に過ごした時間は長い。呼びかけだけで、アグモンが何をするのか太一には分かった。力強く押し出して、リーダーらしく、仲間たちにも指示した。


「それじゃあ僕とゴマモンが援護するよ!」
「たのむ!」
「波が治まるわ!」


 仲間たちの強い意志をもった瞳に太一は頷き返す。ひとりではできなくても、仲間が揃えば、こうも心強い。三本の矢の教えだ。―おれたちは重なれば絶対に折られたりはしない。強い意志のもとで。


「アグモン!!」
「いくよ! アグモンワープ進化ァァ!!――ウォーグレイモン!!!」


 ウォーグレイモンはホエーモンの背中から跳ぶと、勢いのままにメタルシードラモンの鼻っ面を蹴り上げた。だが一瞬メタルシードラモンの体はぶれただけで、びくともしていない様子だった。

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