「ウォーグレイモン!」
「守って、おねがい、おねがい…!!ウォーグレイモンを助けたいのッ…!!」
微弱でしかない願いを贈り続ける。どうしてこんなに何もできないの。次第に目の前が涙で歪んでいく。仲間がこんなに必死に戦ってくれているのに!
そんな栞の気持ちをあざ笑うように、メタルシードラモンは再び宙へと舞い上がった。その口の中には必死に力をこめて防いでいるウォーグレイモンの姿があった。今にもその腕は支えをなくし、あの強靭な牙で噛み砕かれてしまいそうだ。
「やめて…っ!!」
言葉など、何の意味も持たない。力の弱いものであれば、多少なりとも響くのであろうが。メタルシードラモンは優越的に高く笑い、栞を恍惚と射抜いた。
「そこで見ているがいい、守人!全てを殺し、そしておまえは、この私が手に入れてみせる!!―他愛もなかった、ウォーグレイモン!これが最後だ!」
「やめて―――!!」
悲鳴が、喉を焼き尽くすようで、胸を梳くようで、時が、とまるようで。
どうして何もできないのだろう。どうして力を持たないのだろう。何が守人だ。何も守れないくせに。何もできないくせに。
子どもたちの悲鳴と、栞の絶叫と。重なり、海上を駆け抜ける。
―――…あなたを差し出すことはできません。それをするくらいなら、決死の覚悟で、命を賭して戦います。
不意に、その声が、その言葉が、栞の中を駆け抜けていった。
―――…あなたは、我々のすべてです。
その言葉を発した、あのデジモンは、遠くへ逃げたのではなかったか。せめて安全な場所まで無事で。そう祈って見送ったのは、そんなに前の話ではなかったはずだ。どうして、と頬を涙が伝った。
その涙に呼応するように、ホエーモンはメタルシードラモンの鋼鉄な体へと体当たる。デジャブを感じた。そうして先刻も助けられたのを、走馬灯のように思い出す。
「ホエー、モ、」
掠れた声が漏れた。
だめだ、はやく逃げなくては。複雑に絡み合う思いが、データとなって栞の中に降り注ぐ。助けにきてくれた。おそらく、彼女の思いを具現化してくれた。だというのに悪寒は止まらない。
きっと――最悪の未来を――想定してしまったからだ。
「逃げて!ホエーモン―――ッ!!」
もうこれ以上、誰も失いたくない。かけがえのない命を、散らしてはいけない。泣き叫ぶ栞は今にも駈け出していきそうで、必死に押しとどめた。自分の胸に押し当て、その背中を叩き続けるしかできない。空もまた、困惑と歓喜の間で揺れていた。
「……よくも……」
体当たりを喰らった衝撃で、もう少しのところでウォーグレイモンを八つ裂きにできたメタルシードラモンの怒りは計り知れない。低い声が海原を走る。怒りが満ち溢れていく。爛々と光る赤い双眸は、まるで血のように悍ましく、轟々と燃え盛りすべてを焼き尽くす炎のようにも思えた。
「おねがい、にげて…!!」
なおも叫ぶ栞の声は。願いは。
やはり、この大地の上では、届くことはないと思い知らされる。
「冗談ではない!!」
「やめて―――!!!」
それは、長い時間のように思えたが、一瞬だった。
「グア、アアアア…!!」
痛みに揺れる低い声。
貫かれている、頭部。
最悪の、未来。現実。
「ホエーモォォンッ!!!」
とめどなく溢れる涙は二つの光を帯び、水上を駆け抜けていく。その光はウォーグレイモンの体と太一の体を優しく包み込んだ。その光色は橙に輝く。そして生まれたもう一方輝きは、どんな色にも見えたし、透明にも見えた。咽び泣く栞はその輝きと同じ色に包まれ、光放つ。ふたつの色が、重なった。
「ウオオオオ!!」
その幾重にも重なる慟哭に突き動かされ、咆哮をあげたウォーグレイモンは回転を始めた。―この光が、力の源だ。激しく拘束で回転し、狙いを定めた。
「ブレイブトルネード!!」
「アルティメットストリーム!!!」
光に包まれたウォーグレイモンの回転数はみるみるうちにあがっていく。さんざん苦渋を飲まされたアルティメットストリームに突っ込んでいくが、その光線を裂くように、ただ真っ直ぐ鋼鉄の竜めがけ回転数に応じて威力さえもあげていく。
「アアアアア!!!」
断末魔の間を、ウォーグレイモンは駆け抜けていった。橙に光る体は更に回転数をあげ、彼の竜の体さえ真っ二つに引き裂いた。
―終わりは一瞬だった。海へと沈んでいく竜のデータは少しずつ分解を始めた。
「やった…」
あまりの回転数に退化したコロモンは目を回していたが、太一はその身体をしっかりと受け止め、労わった。
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