「……ごめ、んな、さい……ッ!!弱くて、何も出来なくて、ごめんなさい、…っ」
泣き続ける栞を、同じように涙を浮かべた空がしっかりと抱きしめる。誰のせいでもない。悪いのは総て、ダークマスターズなのだから。
ホエーモンは、最後の力を振り絞り、ゆっくり、目を開け、その存在を確かめる。
やさしく、穏やかで、あたたかいこの世界の秩序。どうか泣かないでほしい。どうか嘆かないでほしい。あなたという存在があるだけで自分たちがどれだけ救われるのか。いつだって包み込んで見守ってくれる、母親のような暖かさがどれだけ掬いか。力など、必要ない。そこにいるだけで、意味を成す。そう、伝えたいのだが、もう余力が残っていないようだ。
「選ばれし子供たちよ…この世界を…そしてこのお方を……頼みましたよ……」
傍にいれただけで。自分のために泣いてもらえただけで。言葉を交わせただけで。幸せなのだから。
どうかこの世界を。あなたの手で。そして、選ばれし子供たち。どうか、この秩序を、世界を。あなたたちにしかできない。選ばれし子供たち。
どうか。
―この思いを、託すことは許してくれ。
「ホエーモン…ッ!」
「ホエーモン!!」
潮騒があたりに立ち込める。鼻をつくのは、塩の香だ。
空中へと分解していく彼のデータは、深海で見た、雪のようなマリンスノーのように美しくまいあがる。風にふかれ、キラキラと、飛んでいく。今まで確かにそこに存在していたのに、ホエーモンがいたという証はもう何も残されていなかった。
「ホエーモン…死んじゃったの…?」
「……みなさん、あれ…」
光子郎の目に、先ほどからデータの分解がはじまっていたメタルシードラモンの粒子が、どこかの方角へ散っていくのが見えた。
「空を…流れていく…」
「あの方角は…」
「スパイラル、マウンテン」
「その頂上でっせ!」
不意にずしん、と彼らを地面の揺れが襲った。構えるように身を低くする子供たちは地震かと疑うが―。
「いや違う!あれだ!」
コロモンを抱えた太一にはしっかりと分かっていた。その揺れの意味が。
示された方角はスパイラルマウンテン。全てが終結された場所。その一端に変化が起こっていた。
「海が!」
「消えていく…!」
組み込まれた自然のうち、海が消えていく。否、消えていったのではない。
「……戻った、んだ」
空の腕の中で栞が掠れる声で呟く。彼らにとられたうちの大地が、ひとつ、もどった。それはすなわち、栞の力も彼女の中に戻ったことを意味する。
だが、それを得るために。払った犠牲の大きさは計り知れない。心が悲鳴をあげている。あのすべてを取り戻すために、あとどれほどの犠牲を払えばいいのだろう。あと何度、涙を流せばいいのだろう。その応えは、誰も知らない。
16/05/23
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