119 枝分かれする未来
いくら走っても、終わりの見えない闇の中。決して、作られた箱庭からは逃げ出すことができない。もがいても、あがいても、結末は結局変わらない。力のない自分では、何も守れない。
波にさらわれ、崩れゆく砂の城。
糸がほつれるように、少しずつ崩壊していく自我。
―力がほしかったの。
まだ流した涙は、透明で美しいままだった。
ほろりと頬を伝って地面へ落ちれば、そこから新しい命が芽吹くほどに。
―力があれば。全てを守れたのに。
始まりは、純粋な願いだった。
そして、終わりも、どこまでも優しい、祈りだった。
―――………ごめ、んな、さい……ッ!!弱くて、何も出来なくて、ごめんなさい、…っ。
心臓が、痛い。胸が、苦しい。託された思いは、こんなにもずっしりと重石となって刻まれる。この絶望の連鎖は、これまでの彼女が経験してきたすべてを上回っている気さえする。―この連鎖は、いつまで続くのだろう?ダークマスターズすべてのデジモンを倒すために支払う額は、一体どれほどの犠牲という名の代金なのだろう?
「ミミちゃん…」
栞は、ミミが砂をかき集めている姿を目にして、胸が締め付けられた。その眼にはまだ若干の涙が浮かんでいるようだったが、涙は頬を流れることはなかった。泣きわめきたいだろうに、その感情をぐっとこらえ、失くした命を悼んでいる。彼女は純真さを秘めた優しい少女だ。
そっと傍に寄り添い、砂を積み上げる彼女の手伝いをする。「栞さん…」赤くうるんだ瞳が栞を見つめる。何も言えず、ただ頷くことしかできなかった。そのまま砂を積んだ。―失くした代償は大きすぎたのだ。
「これ…」
そ、とヤマトが木の棒を差し出した。木の、十字架。ミミは神妙な顔で受け取り、積み上げた砂の頂上に差し込んだ。そのまま彼女はふるえる手で砂山をぽんぽんと優しくたたき、形を作っていく。―それは、全部で4つ。今まで失った命を弔う―だがそこに彼らは眠るわけではない―まさしく、形だけのお墓だった。
「…ミミちゃんの優しい気持ち、きっとみんなにも届いていると思うよ」
「……」
「ミミ、ちゃん…」
ミミは何も答えなかった。その代わり、ふるえる手だけが砂山を固めていく。―彼女の純真にあふれた心は、もしかしたら。そう考えたが、栞には何も言うことができなかった。
――弱い、自分のせいだから。
ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。
謝罪の上に言い訳を重ねながら、誤魔化すように、砂を積んでいった。その姿を、蒼い双眼が見つめたのに気づいたが、栞は何も言わなかったし、イヴモンも何も言わなかった。
栞はそっと空っぽのお墓に手を合わせた。弱い自分は許されることのない罪ならば、せめて、祈ることくらいは。
その時栞は気づかなかった。無数に輝く光が、彼女の周りから飛び立っていったことを。
「スパイラルマウンテンの海がもとに戻っていく!」
「どうして?」
「海を支配していたメタルシードラモンを倒したからだ!」
「暗黒の力が消えたんですね!」
「俺たちの勝利がこの世界の暗黒を取り除いたんだ!」
「この調子でダークマスターズを倒そう!」
「そうすれば地球に平和がおとずれる」
「よぉし、いくぞ!」
他の子どもたちは、メタルシードラモンを倒したことで、今まで不可能に思えたダークマスターズを倒して両方の世界を守るということに対して前向きになったようだった。意気込みとともに高らかに拳を空に突き上げる。「―待って」その時、ひどく落ち着いた、どこか感情のこもっていない声がかけられた。そう、まだ彼女の仕事は終わっていなかった。他のものと同じように、十字架を突き刺す。その行動を、他の子どもたちは目を瞬かせ、見つめる。
「何してるんだ?」
「見ればわかるだろう、墓を作ってるんだ」
若干、苛立った声色を隠せずに、ヤマトが告げる。彼はずっとミミの行動を見ていたから分かっていたのだ。
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