「墓?」
「…これはホエーモンのお墓、そしてこれはピッコロモンの、これはチューモン、そしてこれは―ウィザーモン…」
そこでミミは大きく息をつき、俯いた。ひとつひとつのお墓を指さしたその手は、震えていた。膝の上におかれた手に、栞は手を重ねた。つよく、その手をにぎる。
「みんな…私たちのために倒されてしまったんですものね…」
栞の心境を、空が代弁した。その声は、深く、心の奥底に響き渡る。―みな、自分たちを守るために犠牲になった。何もできない自分を、全てだと告げて、命を賭して戦ってくれた。子どもたちに、希望を託して、データは消え去った。
栞が大切だと思ってデータの中から掬い上げれば、まるで水のように指の間から零れ落ちていく。そして気づいたときには、既に手の中は空になっているのだ。―いっそ…心を閉ざしてしまえば、大切だと思わなければ…何もなくすことはないのに―それは、あの日、あの部屋の中に置き去りにしてきた感情のように、暗く、冷たい感情のように思えた。
「みな死んでしまった…。犠牲と言ってしまえば、それまでだが…」
「彼らのためにも俺たちが頑張らなくちゃ!絶対に敵を倒すんだ!!」
太一は、いつだって勇敢で、まさしく勇気の紋章の持ち主だと疑いようのない傑物だ。子供たちにしてみたら、キラキラと瞬き、輝く太陽だった。諦めを知らない、どこまでも明るく輝いていける。たとえ暗闇の中でだって、輝くことが出来るのだと思う。彼の勇気に溢れた心はどこまで真っ直ぐのびて、正義感にあふれて、強く自分を保っていられる。
――しかし。
「…あたし……いや……」
「なんだって?」
誰しもが彼のようにいられることなんて、ありはしないのだ。純真に輝く少女の繊細で優しい心。たくさんの死を見届けたその心は、少しずつ亀裂が入り、ついには、ぴきり、と音を立てて欠けてしまったのだ。
「ミミちゃん…」
その片鱗が、何故だか栞には見えていた。欠けていく、彼女の心。このままでは、ミミは折れてしまう。
気遣うように、反対の手でも彼女の手を包み込んだ。生きているからこそ、自分たちは温かく、誰かに分け与えることができる。でも、砕け散って空へと舞い上がっていった彼らのデータはどこへ向かう?
ピエモンに殺されそうになって、目の前で、チューモンに掬われて、でもそのチューモンは死んでしまった。その時から、ミミの気持ちには暗い影が差していた。わっ、と栞の手を振りほどいてミミは両手で顔を覆った。
「あたし、もういや!どうしてあたしたちが戦わなくちゃいけないの!?」
「何言ってるんだ、あいつらを倒すことで仇を討てるんだろ?」
太一には、ミミの気持ちが分からない。ミミは弱気になってるだけだ、けれどそんな弱気ではこれから先乗り切ることはできない。自分たちは前に進んでいかなければいけないのだから。
――それど、その言葉は余計に傷心しきったミミを追い詰めるだけだった。
「もうやめて!!」
ミミは、悲鳴をあげて逃げるように耳をふさいだ。
「八神くん、!」
「太一!」
制止する栞とヤマトの声が重なる。ひとつは止めようと、もう一つは責めようとする声色だった。
栞は思わず空を見上げ、空が頷いたのを見てから、ミミを抱きしめた。ふるえる体は、自分とそう変わらない幼い少女だった。ミミの手が、ぎゅ、と栞の服を掴んだのを確認してから、そっとその背を撫でる。
「少しは周りの人間のことも考えろよ!」
「えっ、どういうことだよ?」
「お前の言ってることは確かに正しいよ。でもな、正しいだけじゃ人の気持ちは整理がつかないってこともあるんだよ!!」
「……っ!」
「お兄ちゃん…!!」詰め寄るように糾弾する彼を止めようとタケルがヤマトを呼ぶが、仲間思いの彼はこの感情をどうしても止めることができなかった。
どんな時でも前に進んでいける太一と、仲間を思って慎重になるヤマトと、意見がぶつかるのは前からあったことだが、今回はそのレベルがあまりにも違ったのだ。あまりの激昂に、太一の方が戸惑ってしまった。
「前に進むことが正しいことだってわかっているさ!でもな、時には立ち止まって考えたいときもあるだろ!?」
「そんなこと言ってたら、いつまで経ってもこの世界は!!」
「そんなことみんな分かってるさ!だけどな!」
対極にある彼らの口論は、どんどんとヒートアップしていった。
その合間にもミミの嗚咽が聞こえる。「泣かないで、ミミ…」心配そうにパルモンがミミを見上げた
「ねえ、止めましょう。みんな気持ちが動揺しているのよ」
「ここは目に付きやすい。危ないから他へ移動しよう」
結局、いつものように空が仲裁に入り、丈の尤もな提案によってその場を離れることとなった。―彼らの心は、バラバラのまま。
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