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 まるで彼らの心を表すかのような鬱蒼を生い茂る森の中を、黙々と進んでいく。各々に思うところがあり、誰一人とて言葉を発そうとはしないからまるでお葬式の参列者のようだった。
 未だミミの涙は晴れず、時折ぐすぐすと声を漏らしていた。そんなミミに寄り添っていた栞の表情も、やはり暗かった。
 どうして戦わなければいけないの―というミミの言葉が、胸に突き刺さったのは事実だった。
 栞にもっと力があったのなら、ミミをこの戦いから解放してあげられるのだろうか。どちらの世界も救うことができて、みんなをはやく元の世界へ戻してあげられるのだろうか。栞が何もできないから皆が犠牲になって、栞が弱いからミミの心に雨を降らせて、皆に悲しい顔をさせるのだろうか。つらい選択をさせるのだろうか。どうしたら、正解なのかが栞には分からない。守人として、彼らに何をしてあげられるのか。沈痛な面持ちでミミを見つめ、それから俯いた。


(…答えがほしい。…私にできることを教えてほしい。祈ったって、願ったって、失ってしまったら何の意味もない…)


―――…もり、びと。


 耳を掠める声が、その時聞こえた。鼓膜を刺激したその音に、栞は思わず立ち止まる。


「栞…?どウしたノ」


 きょとん、と蒼い双眸が栞を見つめる。「呼ぶ声が―」そう言いかけ、ぐっと唇を結んだ。敵かもしれないと思ったからだった。しかしイヴモンは聞き逃したりせず、彼女の言葉を復唱する。


「声?」
「………もりびと、って、そう呼ぶ声が」
「……ソの声聞いてどウ思っタ?悪い感ジした?」
「…どう思った…て」


 そう問われて、今度は栞が彼の言葉を復唱して、考える。心臓がふるえる、恐怖で足がすくむ、悪寒がする。―いつも怒る悪いことの前触れのような感じは。


「…ううん、しなかった。…なんだろう、どちらかといえば…懐かしい、感じ、かな」
「懐カしい…」


 その言葉を受けて考え込むイヴモンは、不意に顔をあげた。「ヒカリ、どウしたノ」と同じように立ち止まって、周囲を見渡す少女に声をかけた。


「テイルモンにも聞いたんだけど…今何か聞こえなかった?」


 不思議そうに眉を寄せて問いかけるヒカリに、イヴモンは目線をテイルモンへと送る。彼女は首を横に振っていた。


「私には聞こえなかったんだ。…ヒカリには人の声が聞こえた、というんだが」
「ヒカリちゃんも?」
「栞さんも?」


 思わず口を挟んだ栞に、ヒカリはぱちぱちと目を瞬かせた。栞は小さく頷いて、眉尻をさげる。


「なんだろう…あんまり悪い気はしなかったんだけど…」
「私もそう思って……でも私たちだけにしか聞こえないって…あるのかな…?」
「それより早く行かないとみんなに追いつけなくなっちゃうよ」


 その言葉に二人で前を見ると、他の子どもたちはだいぶ前へと進んだ位置で二人がいないことに気づいたのかこちらを見ていた。慌てて駆け寄ると、太一の鋭い声がヒカリをおそった。


「どこ行ってたんだ!!」
「何か聞こえたような気がしたの…でも気のせいだった」
「危ないからはぐれるなよ」
「うん、わかった」


 素直に頷くヒカリに、心底ほっとしたように表情を崩す太一は、余程妹のことを心配しているのだろう。以前、タケルの扱いについてヤマトと揉めた時には、彼の心配性加減にいろいろと言っていたが、やはり妹となると別らしい。その表情は兄そのもので、栞はそっと胸元を握りしめた。

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