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異変が起こり始めたのは、ヒカリと栞が子供たちのもとへ到着し、再び歩き始めてから少し経ってからのことだった。彼らの歩行スピードが、突然、何の前触れもなくあがったのだ。気づけば周囲の景色が流れて行って、驚いて足をとめても、そのスピードは変わらない。まるで空港などでよく見る、動く歩道に乗ったような感覚だ。
「なんだ!?」
「周りの景色が流れていくよ?」
「えええ!?どうなっているんだ!?」
「…あ!!」
最初に気づいたのは、光子郎だった。彼はすぐに足元に目をやり、動いているのが自分たちの足元だけだと気づき、それを受けて太一がすぐさま他の子どもたちの指示を飛ばし、子どもたちは慌てて動いていない左側の草むらへと飛び込んだ。そうして事なきを得た――はずだったのに。
「今度はこっち側の地面だ!!」
先ほどまで動いていた地面が止まり、子どもたちが飛び乗った地面が前へと動き始めたのだ。―こうなってしまったら、おそらく、反対側に逃げたところで行く道は変わらない。彼らの進むべき方向は定められている。
不安げに胸元を掴む栞へと視線をやり、同じように眉をさげた空はぽつりと呟いた。
「ねえ、このまま進んでいったらどこにつくのかしら」
「間違いなく、この先には敵が待ってるんだろうな」
「そんな!!」
「黙って敵の思うつぼにはまるのか…!!」
「そうだな……」
太一は考えをめぐらせ、ふと視界の端にうつった木へと意識を向ける。地面にいる限り、おそらく敵のもとへまっしぐらコースだろう。敵には見張られているのだろうし。―だが木に飛び移ったら?その木があるエリアが動き始めるのだろうか?―一か八かだ。
太一は子供たちに指で木を示し、地面ではなく、木へと飛び移ることを提案する。おそるおそるな子供たちだったが、全員が木に飛び移り、しがみついたが、その木が生える地面が動き出すことはなかった。誰からともなく、ほ、と息を吐き出した。
「ここにダークマスターズの誰かがいるのかしら…」
「ええ、多分…」
「結局敵に向かって歩いていたのか、僕たち…」
「…このままいけば、確実に…」
「でもいつかは対決しなきゃならないんだ。おんなじことさ」
デジタルワールドに戻ってきて、もう何度、仲間の犠牲を見てきただろう。ダークマスターズは強い。完膚無きまでに彼らの心を砕いてくる。ホエーモンたちの身体を張った犠牲のためにも、彼らに応えるためにも、ダークマスターズを倒さなければいけないことは分かってはいる。いつかは合間見えなければならないと分かっていても、その覚悟と勇気が、正直消失していった。―もう、これ以上、仲間の死を見たくはない。それは人間として至極当たり前の感情であった。勝てないと分かりながら、もし勝てたとしても、それは一体いくつの犠牲を伴うものかもわからないというのに、これ以上、どうやって戦う決意を持てるというのだ。
子供たちの弱気な考えの中、太一の強い声が響く。
「八神くん、」
「だってそうだろ?どうせ戦わなきゃいけないんだ。それが今だって、あとだって変わんないだろ」
このままでは、先ほどの場面を巻き戻すだけだ。視界の端でヤマトの眉が吊り上がり、表情がゆがんだのが見えてすかさず栞は太一の名をよぶが、彼の意見も気持ちも変わらない。もちろん彼の言い分も分からないでもない。ヤマトが先ほど言った通り、太一は正しいのだと思う。前に進まなければ何も変わらないし、ここで地団駄踏んだところで仲間が帰ってくるわけでも、敵が勝手に倒れてくれるわけでもない。
だが、気持ちに整理がつかないから―。
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