120 会いたい。




「ひーとり、ふーたり、さーんにん消えて!」


 鬱蒼と生い茂る森を抜けた先にある、少し古びた洋館のなか、無邪気な子供の声色を持った弾んだ歌声が響いていた。楽し気な雰囲気で、選ばれし子供たちによく似た人形が配置された森の図を見つめていた。
 ―彼の名は、ダークマスターズのひとり、ピノッキモン。


「ねえ、キウイモン。こんなの手ぬるいよ。みんな殺しちゃえばいいのに」


 傍らに控えた部下のキウイモンに声をかけた。
 部屋のいたるところにはおもちゃが散乱し、そして彼らの傍らに置かれたテレビの中には森の光景が映し出されていた。子どもたちが自分たちの状況を把握できずに戸惑う姿を見て、ケラケラと笑う。―無様だ。なんて間抜けな子供たちだ。言葉通り、掌で踊る、マリオネットたち。


「遊び相手がいなくなりますよ」
「そうだけど……」


 栞の考えた通り、彼はこの人形をあやつり、子供たちを操作していたのだ。彼が人形を他の場所に移動すれば、その人形と同じ場所へと本人も移動させられるといった具合に、今までの現象はすべてこの人形を通して行われていた。
 だがその人形は全部で八体。選ばれし子供分だけで、一つ足りない。


「あーあ、でも守人は操れないしつまんないな〜。どうして守人では遊べないんだよ」
「世界の理である秩序は操れません。その代わり、選ばれし子供たちを使うのでしょう」


 冷静なキウイモンの言葉にピノッキモンは、つまらなそうに溜息をついて、手に持ったパチンコをかまえた。真っ直ぐ丈の人形に狙いを定め、弾が放たれる。寸分の狂いもなく命中した弾は、人形を弾き飛ばすくらいの勢いがあった。それは、実際、丈本人の腹に見えない弾が放たれたも同様で、苦しむ丈がテレビに映し出されてピノッキモンの気持ちは高揚していった。―苦しむ姿は何よりの美酒。楽し気に笑い声をあげるピノッキモンの瞳にはやはり何の感情もない。子どものような無邪気を持ち合わせながら、子どもだからこその残酷さが子供たちに襲いかかる。


「今度はこうしてみようかな?」


 気分をよくしたピノッキモンは再び人形を持ち上げ、入れ替えた。テレビの中で、子供たちの位置がシャッフルされたり、持ち上げられた太一は頭を地面にぶつけられたり、されるがままの状態だ。
 さしずめ、天上から地上をあやつる神のような気分になる。盤上の上を支配できるのは、己ただ一人。秩序であろうが、守人は手出しできない。自分には、彼女の反対の力の加護があるのだから。


 そう、楽しませておくれよ。つまんないことは嫌いなのさ。
 君たちは僕のおもちゃなんだから。


★ ★ ★




 ある意味、一触即発の雰囲気の中、急にヤマトが消え、代わりに光子郎が戻ってきた。呆ける彼に声をかけようとしたとき、今度はタケルが消え、その場にミミがその場に座った。


「光子郎くん、ミミちゃん、大丈夫?」
「ええ…。僕は飛ばされたところで空さんといましたが、急に視界が眩んで、気付いたら今度はヒカリさんと…最終的にまたここへ戻ってきたみたいです」


 ミミも同じような感じだったのか、頷いていた。
 どうやら全員が同じ位置にいるわけではないみたいだ。飛ばされた場所はここからそう遠くはなさそうだが、全員がバラバラの位置にいるらしいので探すのは手間はかかるだろう。


「みんなどこへ行っちゃったの…?」
「こうしていてもしょうがない!探しに行こう!」
「分かった、僕、タケルを探す!」


 もしパートナー不在の場所で襲われでもしたら。そんな不安がつきまとい、デジモンたちは危機を感じる。―ここにいたってしょうがないというテイルモンの尤もな号令で、デジモンたちは動き出した。


「…私、ここで待ってる…」
「ミミちゃん、」


 だがやはり、ミミは頷けなかった。どうにも沈んだ様子で、座り込んでしまっていたので、栞は眉をさげる。
 優しい彼女の曇りは晴れない。いつもの明るい笑顔は隠れてしまっている。これ以上無理をさせるわけにもいかなかった。彼女の精神状態が危ぶまれたからだ。年下で、明るくて、こんな自分を慕ってくれていたミミを、ヴァンデモンに引きずり出されたとき、自分に最後まで手を伸ばしてくれていたミミを、栞はただまもりたかった。


「…光子郎くん、ミミちゃんとここで待ってて。お願い」
「でも、栞さん…!っ…栞さんだって危険です、待っているなら一緒に!」
「え、っと…たぶん、なんだけど、私は影響を…受けないだろうから」


 不安げだが、どこかはっきりと伝えるその声色に、曖昧に笑みを浮かべる彼女に、光子郎は目を見開いたが、頷くよりほかにはなかった。―いつだって、そう、控えめながらも無茶をする人だと、もう分かり切っていたからだ。


「分かりました。みなさん、お願いします!」
「おう!」
「ミミちゃん、……大丈夫だから。待っててね」


 木をおりる寸前、栞はそう言った。俯き加減だったミミはその声に顔をあげる。いつか見た、あの時のような笑顔がそこにあった。
 あの時、栞は捕まって。助けるって、待っててって、あの時はそう言えたのに。その笑顔と重なって、チューモンが、ピッコロモンが、ホエーモンが次々と倒されていくのだ。そうして最後は、栞が。―何も言えなかった。言葉が出なかった。もうこれ以上、誰かの死を、見たくなかった。ただ、それだけだった。

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