「そこにいるのは…だれ?」
極めて優しい声色で問いかければ、イヴモンは丸っこい眉をぐ、と寄せて厳しい表情をしたけれど、それ以上は何も言わなかった。
「…出てきて」
その声につられるようにして、草むらががさがさと揺れた。ただ、何者かも分からないままで、栞の言葉を真に受けるわけにはいかなかった。相手は油断させておいて襲ってくるのやもしれない。
臨戦態勢を取るイヴモンの前で、揺れる草むらからひょっこり、と白く長い耳が見え隠れしていた。それは動くたびにひょっこりひょっこりと揺れた。
「――っ!」
「あれは――」
その揺れ動く“耳”を見た途端、イヴモンは目を最大限大きく見開き、更に呆然と栞は目を見開く。―知らないはずなのに、知っている。それは守人として当然のことなのだろうが、今まで舞い込んできたデジモンたちのデータと異なり、知っていることが当たり前、自分の一部だとさえ錯覚させる。
「…あなた…は」
「うわああああー!俺は一般的に善良なデジモンですよー!?攻撃とかやめてくださいねー!?」
「お前は、」
慌てて飛び出したデジモンは、何度も栞とイヴモンの目の前で跳躍を繰り返す。見て取れるほどに焦っている様子がうかがえた。その存在を見て目を細めたのはイヴモンだった。
ぴょこんと立った耳が愛らしい、白い毛並は艶やかで、どことなく自分の横にいる“彼”に似ている。
ウサギのようなデジモンは顔をあげ、栞を視界にいれると、わあ、と大袈裟なほど高い声をあげて、にっこりと愛想のいい笑みを浮かべ、ぺこりと頭をさげた。
「守人ですねー!?いやあ、お会いしたかったですよー!お帰りくださってありがとうございますー!」
間延びのする声に、どうにも警戒心が薄れていくし、何より、栞の心の奥底で渦巻く何かが、このデジモンを受け入れていた。にっこりと笑う彼は、どう見ても、経緯を考えても、ピノッキモンの部下であるとか、そういう類の怪しいデジモンでしかないというのに。
「あなたは…?」
「デジモンですよー?」
「え、と、そうじゃなくて…」
「ああ、名前だったら、俺はアムモンっていいますー。どうぞお見知りおきをー」
だがいっそ清々しいほどににっこりとほほ笑むデジモンに、栞はどうしてか大好きな人の気配を感じて、胸が熱くなる。
「それよりおひとりですかー?他の選ばれし子供たちはどうされましたー?」
「それは…」
「……もしかしてピノッキモンにやられてしまいましたー?」
「…!!…どうして…?」
「そうですねー、このエリアを支配しているのはピノッキモンですから、守人がおひとりならピノッキモンにやられたと考えるのが妥当でしょうねー。あいつは人形遊びが好きですからー。思いのまま、操ることができますー」
「…みんなをその場から移動させられたり、地面を、動かしたりできる?」
「ええ、できますよー」
にっこりと、はっきりと。アムモンはそう告げた。
栞の中で、何かしらのピースがはまっていく。「栞、…行こう。みんなを探さなきゃ」と急かすイヴモンはどこか苛立った様子だったが、栞はこのデジモンは特別なような気がした。―栞が求めているものを、知っているような気さえ。探し求めていた答えを、教えてくれるような、導いてくれるような気さえ。
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