「でも、」
「…これはね、約束なんですよー。あの人との、大切な約束。ですから俺はあなたを守らなきゃいけないんですー」


 あの人――それはつまり。そのあまりにも優しい声色に、大好きな面影を重ね、間髪入れず栞が頷きかけた。
 だが、しかし。


「…お前なんか必要ない」


 どう見ても機嫌の悪いイヴモンに、栞は目を見張る。どんな時でも冷静で、まあ嫌味の一つ二つはお手の物だったが、そんな彼が目に見えて否定を持った感情でアムモンと対峙していることに驚きを禁じ得ない。―栞に危機が迫ったときや、栞が危険な場所へ飛び込もうとするとき、栞に対して敵意を持ったものが目の前にいるときは仕方ないとしても、目の前のアムモンはどう考えてももう敵ではなかった。内情を明るみにして取り入り、内部から崩壊させようならまだしも、イヴモンとは昔なじみのようだし、その点に関して心配はいらなそうだ。ましてや子供たちの場所まで案内してくれ、ここらの地理に明るい。栞にとっての利点しかないアムモンの存在は正直ありがたいことなのに。
 つんけんと言ってそっぽを向いたイヴモンに、アムモンは栞へと向けていた笑みとは真逆の意味をもった笑みを浮かべてイヴモンへと向き直る。


「おやー?ですがあなたには誓約がある。だから進化出来ないのでしょうー?」
「っ、…それはおまえだって」
「少なくとも俺はこの地に明るいですよー?道案内役としてもお役に立てると思いますが―?それにあなたよりかは強い、ですよー?」
「あ、あの、イヴモン、アムモンも、」
「……」


 栞の困惑していて、どうしたらいいのか分からないという声色を受けて、イヴモンは眉を寄せたが、それ以上は何も言わなかった。にっこり、清々しいほどの笑みを浮かべて、手を伸ばしてアムモンは栞の手を握り彼女を見上げる。


「では行きましょうかー守人さんー」
「ちょっと!栞に触るなよ!」
「うるさい毛だまりは放っておきましょうねー」
「栞、そんなやつにかまわずに行くよ!」


 このアムモンというデジモンが何者なのか、一体どんな使命を帯びているのか、栞にはほんの少ししか分からなかった。ただおそらく彼は、守人という役目を背負った自分の傍にいるイヴモンと同じように、狩人という役目を背負った兄の傍にいるデジモンだったのだろう。“あの人”、つまり、兄との約束があって栞の傍へと来てくれたのだろう。アムモンが“狩人さん”と、そう呼ぶとき、まるでイヴモンが自分を呼ぶ時と同じように、優しい顔をしていたから。


「いやですねーオトコの嫉妬は醜いですよー」
「黙って道案内してさっさと消えろ」


 そしてこの短時間で分かったことと言えば、この二体が、相性が最悪なのだというくらいだった。


16/07/19

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