110 ゴルゴタへと向かう道
月明かりの下、寂しそうに微笑んだ幼い顔を今でもまだ覚えている。その幼い横顔に残された一筋の決意が浮かび上がっていたことに気づいたからだろうか。本当はもっと頼ってほしくて、もっと泣き言でも恨み言でも打ち明けてほしかった。全てを包み込むように微笑んで、傷ついて、それでも微笑んで。
一体いつ転んでも、綻んでもおかしくないくらい自分の中に溜め込んでいた姿を、ただ見ていることしかできないもどかしさを嘆いていた。
★ ★ ★
子供たちの前に現れたのは、全身を鎧で覆われた巨大な竜だった。頭の中では絶えず警鐘が鳴り続ける。真っ先に危険を感知して子供たちの前に出た栞の瞳は、ほとんど無意識のうちに赤く染まっていた。
「選ばれし子供たち、そして守人よ!待っていたぞ!!」
チューモンの言葉が子供たちの頭に甦る。ダークマスターズには、適いっこない。今までと同じような敵ではないことを、栞の行動自体が物語る。怯えるでもなく、震えるでもなく、ただ真っ先に子供たちの前に立つ。赤く染まる瞳。それは相手が強敵であることを何よりも示していた。
「メ、メタルシードラモンだ…!!」
チューモンの悲鳴のような高い声だけが辺りに響き渡る。姿かたちは、彼らの知っているシードラモンと酷似しているというのに、このデジモンから放たれるオーラの禍々しさは今まで体験しえないものだった。
突如出現したメタルシードラモンは、水の中から宙を舞い上がり、まるでここが水の中であるかと思わせるくらい悠々とした泳ぎのまま、後ろから子どもたちに狙いを定める。強大な力を前に、ただ、逃げるしかできなかった。大きな体で子供たちの列に突っ込み、その凄まじい風圧に耐えきれなかった彼ら転がり倒れていった。
「デカいくせになんてスピードだ!」
転がった拍子に吸い込んでしまった砂煙とともに吐き出された言葉をあざ笑うように、メタルシードラモンは空を泳ぐ。栞は大きく息を吐いて立ち上がり、その姿を睨み据えた。彼女らしからぬ、怪しい色合いの眼光だった。
そのあとに続いて立ち上がったのは太一だった。彼が己のデジヴァイスを掲げると、それは七色の光を吸収し、その中から一つ、橙の光へを発した。
「行くぞ、アグモン!」
「よっしゃ!」
「アグモン進化ァ!――グレイモン!!」
何度も進化を繰り返すうちに彼の中に蓄積されたデータは、確実に彼自身のものとなっていた。それはアグモンだけでなく、他のデジモンも同じことがいえた。
「ガブモン進化ァ!――ガルルモン!!」
「ピヨモン進化ァ!――バードラモン!!」
「テントモン進化ァ!――カブテリモン!!」
「ゴマモン進化ァ!――イッカクモン!!」
「パルモン進化ァ!――トゲモン!!」
「パタモン進化ァ!――エンジェモン!!」
「プロットモン進化ァ!――テイルモン!!
次々とデジモンたちが進化を遂げ、グレイモンに続いた。だが、「メガフレイム!!」、空を泳ぐメタルシードラモンに挑むものの、彼は避ける素振りすら見せず、グレイモンから発せられた火炎弾が体に当たっても微塵も感じていないようだった。「フォックスファイヤー!!」「メテオウイング!!」「メガブラスター!!」「ハープーンバルカン!!」「チクチクバンバン!!」次から次へとデジモンたちの必殺技が、メタルシードラモンの体に命中していくというのに、かすり傷すら残らない。
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