122 泣けない僕に二度目の雨が降る




 曇っていくその表情がどこか危うげで、目を離せられなかった。友情に輝くその瞳が、昏く淀んでいくのが、こわかった。
 あまりにも危機的な状況が続いていたせいで、子供たちの間に奔った亀裂はどんどん深くなっていくように思えた。修復しなければ、と無意識に思った。
 ついにそっと離れていくその背中を追いかけ、森の中へ恐る恐る足を踏み入れる。


「勝手に離れちャだめでショ、栞。戻ろうヨ」
「…うん、でも…」
「俺、鼻いいんで戻りたくなったらすぐ戻してあげられますよー。今は、彼が気になるのでしょうー?」
「…うん。ありがとう」


 ヤマトが仲間たちの輪からそっと離れ森の中に消えていくのを見ていた栞も、そのあとを追いかけた。今、彼を一人にすることは、即ち、彼の闇を深くするだけだと気づいていたからだ。―彼の心の闇に反応して、心がひどく疼く。まるで陸にあげられ、水を欲しがる魚のように。血液が沸騰するように、闇を求めて共鳴する。
 もしかしたら、今彼の傍に自分がいくことは逆に危険なことかもしれない。誘発してしまう危険だってある。けれど放ってなどおけなかった。栞の中に芽生えた仲間意識が、それを許せなかったのだ。


「…仕方ないネ。でも十分気を付けてヨ」
「おやおや随分と過保護ですねー」


 ひとつ溜息をついたイヴモンの鋭い視線が、アムモンへと送られるが彼は相変わらずのほほんとした笑顔で応じただけだった。仲がいいとは決して言えない間柄かもしれないが、この二体のやり取りをみているとどこか気持ちが落ち着いてくる気がした。自分自身を見ているような、そしてまるで自分の中のものが、還ってくるような感覚だ。――とても不思議だ。
 立ち止まり、その後ろ姿を見つめる。


「いつまでも――」


 無意識に零れたのは笑顔だった。全てを許す、優しい笑顔。母なる大地のように、全てを包み込む、暖かな笑顔。
ついてこない足音に気づいたイヴモンは振り返り、不思議そうに首を傾げた。


「―栞?何か言ッた?」
「え?ううん、何も言ってないよ」
「早く行きましょうよー。どんどん遠ざかっちゃいますよー?」


 うん、と返事をしてそのあとを追いかけた。


★ ★ ★




「おーいヤマトー!栞ー!」
「栞ー!ヤマトくーん!」
「ガブモーン!イヴモーン!!どこ行っちゃったんだよー!」


 突然消えてしまった栞たちを探して、子供たちは森の中を歩き回る。最初は近場にいるだろうからすぐ見つかるはずだと踏んでいたのだが、声をあげて探し回っても見つかる気配がない。
 呼ぶ声は森の奥深くへと吸い込まれていく。誰からの返答もなかった。


「お兄ちゃん…ヤマトさんどうしちゃったんだろう…?」
「知るかよ、まったく!なんだよ、アイツ」


 ヒカリは不安げに兄を見上げるが、当の本人は腕を組んでそっぽをむく。先ほどの彼の態度を思い出し、少し腹が立ったからだ。


「もしかしてピノッキモンにさらわれちゃったのかも…?」
「突然姿が消えた…栞さんもいない…あり得ますね…」
「いや…それはないと思うよ…」


 ひとりだけ神妙な顔で俯いていた丈が、どこか言いづらそうに切り出した。


「え?」


 その思ってもない言葉に驚く子供たちに、丈は更に言いづらそうに口を開く。彼の脳裏にはひとり、だまって森の奥へと消えていくヤマトの姿と、それを追いかける栞の姿がうしだされた。


「ヤマトと栞がいなくなるのを見てた?―なんで止めなかったんだよ!」
「だって…ちょっと用を足しに行っただけかと思ったし、二人一緒なら大丈夫かなって…。…ごめん…」


 太一に腕を掴まれ、揺さぶられながら、大したことではないと思って止めなかった自分を責める。深くつかれた溜息に、太一の方が言葉をなくした。

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