123 落下する太陽




「ヤマトォ!どうしたんだよォ!―ヤマトってば!」


 ガブモンがいくら問いかけても、ヤマトは何も答えてくれなかった。苛立ちをもった表情を見つめ、焦りはいつしか困惑へと変わる。
 先ほど栞と別れてから、いっそその表情は暗いものとなっていた。普段のヤマトなら、あんなこと栞にぶつけたりはしないだろう。それくらい、ガブモンにだってわかっているつもりだ。だからこそ、今のヤマトの変化に、ただただ戸惑うしかなかった。


「ヤマト…」


 湖のまわりを、ただ歩き続ける。目的なんてなかった。ただ、独りになりたかった。
 今にも泣き出しそうな彼女の顔が焼き付いて離れない。くそ、と心の中で呟く。くそ、くそ。彼の中の葛藤はぐるぐる同じところを回り続け、終着点はない。


★ ★ ★




「へへっ、自分から一人になるなんて馬鹿なやつ!それって殺してくれって言ってるようなもんだよね?」


 何の感情もこもっていなさそうで、それでいて子供のような無邪気な声が周囲にひびきわたる。
 大きな木に座り込んだピノッキモンは、まっすぐ遠くにいるヤマトをとらえた。


「さようでございますなあ」
「どうせ僕と遊んでくれないのは分かっているからね。お望み通り殺してあげるよ」


 折角手に入れた遊び道具のタケルが彼のもとから消えてしまって、ピノッキモンの苛立ちも最高潮だった。感情のない瞳でヤマトをとらえ、その脳裏には既に地面に伏す選ばれし子供の姿が映し出されていた。―口角を、にやりとあげ、立ち上がる。


「お待ちください、ピノッキモン様。このわたくしに考えがございます。―ピノッキモン様には他の子どもたちの相手をしていただくとして、ここはひとつ、このジュレイモンにお任せくだされ」


 実はピノッキモンが座っていたのは、ただの木ではなかった。―彼の名はジュレイモン。樹海の王と呼ばれ、ピノッキモンの忠実なしもべにして、完全体デジモンだった。
 怪しげな光を放つ瞳が、歩き続けるヤマトをとらえる。口角が、にやり、とあがった。


★ ★ ★




 ずるずると木に背を預け、その場に座り込んで頭を抱える。このまま溜め込んでしまっては嫌な黒い感情に支配されそうで怖かった。


「俺は…ずっとタケルのことを思ってた。タケルは俺がいなきゃだめなんだって…そう、思ってた…。でも…いつの間にかタケルは成長してたんだ…俺なんか…必要としないくらい…」


 ただ、黙ってヤマトの言葉を聞くガブモンは、少しだけ悲痛な表情をした。
 ずっとヤマトの傍にいたのだ。タケルの成長を、ガブモンだってしっかりその眼で見てきた。そしてどれだけヤマトがタケルを大事に思っているかもわかっているつもりだ。


「タケルだけじゃない。太一も、空も、ミミも、丈も、光子郎も、…栞だって、このデジモンワールドにきて変わったよ。みんな強くなった」
「…うん」
「それに比べて俺はどうだ?…俺は昔のままだ。何も変わっちゃいない」
「っそんなことないよ!ヤマトだって、!」


 己を否定する言葉は、ガブモンが一番聞きたくなかった言葉だった。食いつくように更にその言葉を否定するが、ヤマトは首を左右に大きく揺さぶり、拳を強く握りしめた。


「―俺は一体なんなんだ…っ!!俺はこのままでいいのか!?」
「ヤマト…」
「このままじゃダメなんだ…っ!変わらなくちゃダメなんだっ!もっと強くならなきゃダメなんだ!!」


 立ち上がり咆哮する。木々がざわめくように、揺れた。
 そうして、まるで憑き物が落ちたように俯いた。


「……そのためにも…みんなといちゃ……ダメなんだ…」


 まるで自分に言い聞かせるように、絞り出したその声は低く、地を這う。


「ふぉっふぉっふぉ…」

「っ誰だ!?」


 突如響き渡った笑い声に、咄嗟に振り向いて臨戦態勢をとる。視界に入り込んできたのは大きな木の形をしたデジモンだった。―一目見ただけで、その強さが知れて、背筋がふるえる。


「わたくし、ジュレイモンと申します」
「ジュレイモン…!?」
「さてはお前もピノッキモンの仲間だな!?」


 ヤマトを庇うようにガブモンが前に出る。


「まあ、お待ちなさい。わたくしは別に戦いにきたのではありません。ちょっと話し相手がほしかっただけなのでございます」


 突き刺さるオーラに反して、物腰の柔らかな言葉遣い。ヤマトは握りしめた手から、じんわりと汗がにじむのを感じていた。

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