「覚悟は……できている。教えてくれ!俺はどうしたらいいんだ!?」


 ――食いついた。

 心の中で、ジュレイモンがほくそ笑む。
 どうやらこの少年は思った以上に単純で、言葉に弱い。ここまでシナリオ通りに進んでくれるとは、思ってもいなかった。ここまでくれば、あともう一歩。彼は、ピノッキモンに宣言した通り、うまくやり遂げることができるのだ。


「――ライバルを倒すのです!」
「ライ、バル―?」
「あの湖にわが身を映してごらんなさい。倒すべきあなたのライバルが見えるはずですよ」


 指し示された湖に、一歩、近づく。
 今、起こっている出来事を、彼はどこか他人事のように感じていたのかもしれない。歩き出す自分を、後ろから眺めているような感覚。それでも、ジュレイモンの指示に従ったのは、己の意志。彼に乞うたのは、己自身。


―――……おねがい、自分を責めないで…。


「……ッ」


 不意に、彼女の顔が横切って、彼は足を止める。


 守りたかった。
 何もイヴモンから言われたからだけじゃない。
 遠い約束のためだけじゃない。

 自分の意志で、ただ、あの笑顔を守りたかった。

 手折らせたくなかった。

 ――強さがあれば。

 弟も、家族も、仲間も、――彼女も。
 すべて、この手で、守れるのに。

 強く、なりたい。
 もっと、強く。
 誰よりも、強く。

 強く、在りたい。


「俺の…倒すべき……ライバル…」

「…ヤマト?」


 再び、歩を進めた。
 自分の意志で。自分自身で。

 そっと水面をのぞき込む。
 己自身がうつるはずのそこに映し出されたのは。

 いつだって己の前にいくもの。
 勇気を携えて、進んでいけるもの。
 太陽のように明るく誰かを照らし出せる。


「――これは…!!」


★ ★ ★




「俺たちから逃げられると思うなよ!?」


 一瞬呆気にとられてしまったが、ピノッキモンの手前、それしきのことで諦める彼らではなかった。再びバズーカをかまえて逃げ惑う子供たちを追いかける。
 もし諦めるようなことがあれば。もし逃がしてしまったら。ピノッキモンに始末されるのは分かり切ったことだ。考えただけでも悪寒が走る。一瞬で、跡形もなく葬り去れることだろう。保身のためにも、彼らを逃がすわけにはいかなかった。
 林の中に逃げ込んだ子供たちを追い詰めるように、三体はバズーカを縦横無尽にまわし、その勢いで汚物もあらゆる方向に飛んでいく。―これだけ発射すれば当たらないわけがない。――心の中で勝利を確信した、その時。

 大きな光が、木々の隙間を練って、彼らのもとへ届けられる。その光を浴びた瞬間、全身から力が抜け落ちてしまったようで、くたり、と座り込んでしまった。

――え?…え?

 再び呆気にとられた彼らの前に、今まで追い回し続けていた彼らが、成長した姿で牙をむいた。


「メテオウイング!!」
「メガブラスター!!」
「ハープーンバルカン!!」
「チクチクボンボン!!」
「メガフレイム!!」


 まるでその場に縫い付けられたように動けないし、力が入らない。ピノッキモンに始末されることは杞憂に終わったが、どちらにせよ、彼らは葬り去られることになることに違いはなかったのだった。
 大きな爆発音、空までのぼる噴煙とともに、データが散っていった。


「やったあー!!」


 ――その、はずだった。
 砂煙が風によって運ばれ、視界が開けた瞬間、今度は子供たちに悪寒がはしる。そこには、データの残像すらない。倒しきれていないのならガーベモン自身がいるはずなのに、その形跡もない。

 栞の光を感じた。彼女の願いを感じた。
 おそらく近くまできているはずなのに。

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