「あははははは!!そーんなへなちょこ攻撃で倒せると思ったのかい?守人の願いもこの森の中じゃ大したことないね。後ろを見てごらん?」


 まるで言葉に操られるように、子供たちは背後を振り向く。
 そこにはニヒルな笑みを浮かべながら、間近に迫ったガーベモンの姿があった。


「いや……」


 ミミの脳裏に、今まで失くした命が、その場面が甦る。そうして次にやられるのは自分や、仲間や、パルモンなのだ。


「もらったぁー!!」
「いやあああああ!!!」


 ミミの悲鳴が響いたその瞬間、彼女のまわりを光が包み込んだ。


「―おねがい、!」


 “己”を受け止める。もう“否定”したりしない。
 “わたし”は、“私”なのだから。

 紅蓮と、蒼翠と、深緑が混ざり合い、溶けていく。そこに純真の緑が投擲された。
 すべてが混ざり合ったパレットの上は、進化を導く、唯一の色となる。


「トゲモン超進化ァァ!!―リリモン!!!」


 可憐な妖精は、汚物がミミにあたるその瞬間、彼女の体を押し倒し危機を回避する。すぐさま羽を広げ飛び立つと、ガーベモンの醜悪な罠も回避し、一体の顔を踏み台に、高く舞い上がる。


「フラウカノン!!」


 強烈な一撃を喰らった一匹が、今度こそ散っていったのを契機とし、太一が大きく声をあげる。


「よしいまだ!!」


 今度は、勇気の灯る橙をパレットの上で混ぜ合わせる。


「グレイモン超進化ァァ!!―メタルグレイモン!!」


 降り立ったメタルグレイモンは、「ギガデストロイヤー!!」咆哮とともに胸元の発射台から大きなミサイルを繰り出す。対抗してガーベモンも己のミサイルから汚物を発射するが、ギガデストロイヤーの勢いはとまらず、いとも簡単に汚物は彼方へと飛び去り、二体のガーベモンを巻き込んで爆発した。


「うぎぎぎ、ぐぐぐぐ…」


 その爆風に煽られ、吹き飛ばされそうになりながらピノッキモンは必死に木にしがみついていたのだが。


「うわあああ!!?」


 べちゃり、と無情なまでにその額にぶつかった、彼方に消え去ったはずのピンク色の汚物のせいで、思わず手を放してしまったのも言うまでもないだろう。


★ ★ ★




 湖の中に浮かぶ彼は、いつものように明るい笑顔を自分に向けていた。


「太一が…俺の…、俺のライバル、だと…」


 受け止められない真実を、呆然と見つめるヤマトの口から、次第に笑いが零れた。


「悪いが俺は一度もそんなことを思ったことはないぜ」
「その湖は覗いたものの心の中を移すのでありますよ」
「なんだって…!?」


 もう一度、その湖を見つめる。
 ぐるぐる頭の中をめぐる思考の中に、やはり、終着点はない。


「そんな手には…引っかからない…!」


 顔を反らすのは、事実を言い当てられたから。
 声が震えるのも、視界がゆがむのも。すべて。見透かされて、いるから。


「目を反らしてはいけません。ちゃんと自分と向き合いなさい!」


 強い語調に、思わずヤマトは俯いた。
 ―なぜ、敵であるはずのこいつの言葉が、こんなにも染み渡っていくのだろう。夏の日にゴミに群がるコバエのように鬱陶しいはずなのに、こんなにも心の中に浸透するのだろう。


「私は知っております。同じ選ばれし子供といえど、あなたとその太一という少年は何から何まで正反対だということを。何かというと、あなたは太一のすること成すことすべてが気になって気になって仕方がない」


 脳内では太一とのやり取りが再生された。


「それだけに太一はあなたの心の中で大きな存在になっているのです。その思いを乗り越えない限り、あなたは今より大きくなれません。―太一と戦うのです。心の迷いを吹っ切って、新たに生まれ変わるのです」


 深い、闇の中へ。
 奈落の底へ、落ちていく感覚。
 幾重もの黒い触手に絡めとられて。

 ―ああ、もはや、そこから這い上がることもできず。

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