「 生まれ変われたら、守人をこの世界から解き放つこともできるのです」
一筋の光が、その名に宿る。
ヤマトの視界が揺れた。守人とはつまり栞のことだろう。―解き放つとは、一体どういうことだ。彼女はこの世界にとって秩序だという。詳しいことも細かいことも何も知らないが、特別ということだけはしっかり理解できた。だから誰もが彼女を狙っていた。存在が特別だから。
「解、き放つ……?」
「そうです。この世界に囚われてることこそ、あのお方の悲劇だ。この世界と守人を切り離すことができれば、あのお方が死ぬことはなくなる。ふつうの、人に戻れるのです」
「栞が、死ぬ――?」
その言葉が、重く彼の前にふりつもった。
ヤマトの時が止まったようだった。かたまって動けない彼の横で、ガブモンは必死に首を横に振った。
「ッうそだ!!何もかも出鱈目だ!!太一は仲間じゃないか!!栞はこの世界に囚われてなんかない!!騙されちゃダメだよ、ヤマト!!これはきっと罠だ!!」
その言葉に、ヤマトはハッと顔をあげる。
だがしかし、美しい碧眼のその瞳には、もはや光などなかったのである。
「そうさ…俺たちは仲間なんだ…」
まるで自分に言い聞かすように、呟く声はふるえていた。
「仲間同士で戦うことなんかできるか!!」
「仲間ですと?ハッ…本気で信じてもいないくせに」
「っ!!」
「自分を偽ってはいけませんぞ、フォッフォッフォ。…図星のようですな?」
言い返すことのできないヤマトに、ジュレイモンは追い打ちをかけるように大きく笑った。
―しんじている。もちろん、しんじているさ。ここまで一緒に乗り越えてきたんだ。大切ななかまだ。たいせつ、な。
自分を呼ぶガブモンの声が、遠くで響いていた。こんなにも近くにいるのに。
一緒に冒険をして、危険なたびに共に乗り越えてきた。その仲間たちの顔が。走馬灯のように、仲間たち一人一人の顔が消えていった。
「仲間。友達。友情。――実に都合のいい言葉です。そんなものは所詮幻想。一時の感情に他ならない。そんなもののために振り回されることはありません!…違いますか?ヤマトくん」
「……そうなの、ヤマト?」
屋根まで飛んだら、はじけて消えた。そんな童謡の歌詞が、胸に重たい衝撃を加える。仲間たちの顔を持ったシャボン玉が、同じように、消えていった。ヤマトの中から、もう、仲間の顔がなくなっていた。
「俺は……俺には…分からないんだ……」
「ヤマト……」
「いいですか?もう一度言いますよ。自分を磨きたいのなら、太一と戦いなさい!それくらいの覚悟がなければ、自分を変えることなどできません」
――…それでも……それでもいいって、私が思っても?
「この試練を終えなければ、あなたが望む“あなた”にはなれません!」
木枯らしが、ヤマトの横をすり抜ける。
「わからない……」
甘い誘惑が。
「俺はどうしたらいいんだ…!!」
見透かされた心が。
「友情の紋章…。なんでこんな俺の紋章が友情なんだ…!!」
一人きり、奈落に落とされる。
這い上がることなど許されないほど、深く、深く。
「ヤマト、」
―ああ、それでも、彼は、独りではなかった。
はじめから、いつだって、彼の傍には、大切なパートナーがいたのだ。
「…分かったよ、ヤマト。ヤマトはヤマトの思うようにすればいいよ」
「ガブモン…」
ガブモンはしっかりとヤマトを見つめる。いつもはどちらかと言えば穏やかな彼だったが、大事なパートナーのためなら、蛇の道でも進んで見せる。その覚悟が、瞳の奥からうかがえた。
たとえ、誰がヤマトの敵になろうとも。
ずっと会いたかった、ずっと傍にいた、それは今までも、そしてこれからも。
―俺だけは、ヤマトの味方だから。
たとえそれが間違った道だろうが、罪ととがめられようが。
「何も太一みたいに突っ走るばかりが正しい道じゃない。きっとヤマトにはヤマトにしかできないことがあるはずだよ!」
「俺にしか…できない……こと?」
「それを二人で見つけようよ!そのために必要なら――俺はヤマトの為に戦うよ!!」
「ガブモン――ッ!」
“俺”だけは、君の傍に、ずっと傍にいるから。
ヤマトのために、ヤマトのためなら。
何だって、できる。何だって、してみせる。
それくらい、“俺”はヤマトが好きだから。
「たとえみんなを敵に回しても…」
それがたとえ、茨道であろうが。許されない道であろうが。
「俺はヤマトと一緒だよ…!!!」
「ガブモン…っ!」
ひらり、はらり。
心を覆い尽くす友情が、完全に剥がれ落ちた。
「ガブモンワープ進化ァァ!!――メタルガルルモン!!」
それでも二人を燃え上らせるのは、確かな“友情”の証。二人の心の絆の深さは、誰にも負けない。どんなことでも二人でなら乗り越えられる。
「行こう、ヤマト!」
「――ああ」
―ヤマト。
俺には分かってる。
本当は信じたいんだよね、仲間を。友達も。
――友情も。
17/08/12 訂正
16/12/18
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