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三体いたガーベモンも、残り一体となっていた。彼の目の前には完全体であるメタルグレイモンが、彼を威圧する。もはや、絶体絶命のピンチといえよう。
「分かったよ…。俺の負けだ」
ガーベモンはバズーカを地面に置き、しおらしく項垂れて、自身が入っていたゴミ箱のようなバケツから抜け出す。降参、と言いたげな視線の中にはしかし、挑発的な光が宿った。
「――なーんてな!!」
誰が負けてやるものか!強いて言えば極悪人。そんな悪い顔をしてにやりと上がった口角を隠さないまま、ガーベモンはそのゴミバケツを持ち上げ、彼らに向ける。
ブラックホール、と彼は言ったが、まさにその通りの吸引力で、周囲は突風にあおられ、吸い込まれていった。
「くそ、まだそんな手が残っていたなんて…!!」
子どもたちはみんな必死に木々や成熟期に進化しているデジモンにしがみついて難を逃れようともがく。太一は踏んばるメタルグレイモンにしがみつき、もう片方の空いた手で必死にヒカリを支えていた。彼女の軽い体重では抑えていなければとっくに吸い込まれているだろう。
(私が守人なんだから…私が願えば、この争いは終わる。そのために、この世界の闇を…この世界の…“病”を受け入れる…)
突風にあおられながら、他の子どもたちと同じように木にしがみついていた栞は必死で考える。嗚咽を漏らし続けただけでは何も救えない、同じ過ちを繰り返さないために、自身が糧としているものを受け入れる。それが唯一、できることなのだ。
(すべてを救おうなど出来るはずもない。だって弱いから。身を滅ぼす覚悟がなければ、何かを救うことなどできもしない。何かの犠牲をなしに、何かを得ることなどできはしない。歴史はそうやって、繰り返されていく)
闇を受け入れる。自身が闇になることで、同一化する。今まさに、その危機が迫っている。成す術もない彼らを守ることができるのは、闇に身を投じた己の力のみ。
狩人の力を得た彼らに自分の正の祈りが届くはずもなかった。なら、対極にある負の力を使えば、あるいは――?
「あっ…!!」
その栞の思考を遮ったのは、小さな少女の悲鳴だった。
「ヒカリちゃん…!?」
ヒカリの小さな体がふわりと宙をういた。自身も吸い込まれないように必死になっており、ましてや片手でしか掴んでいなかった太一の握力では、支えきることができなかった。
「お兄ちゃーんーっ!!」
「――ヒカリ!!」
「ヒカリ!!!」
真っ直ぐ大事な妹へと伸ばす太一の空いた左手だが、ヒカリをとらえることは叶わなかった。同じように流されていくテイルモンがしっかりとヒカリの手をつかむ。―この手だけは放すものか。ヒカリは、自分が守ってみせる。ずっと待っていたパートナーなのだ。ヴァンデモンのもとで過ごした地獄の日々を払しょくするこれから始まっていくであろうヒカリとの大切な思い出も、ヒカリといて初めて生まれるのだから。
テイルモンがヒカリの体を守るように抱きしめた。その姿が、あのゴミバケツの中に吸い込まれてしまう。
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