「ヒカリちゃん、っ!!」
だめだ。あの子は、だめだ。その子は光なのだ。この世界に大切な光なのだ。“狩人”と同じ、優しい光を持つ子ども。
失くしては、だめだ。
「ヒカリちゃん――っ!!」
データの上をすべるように、淡い色が駆け抜けていく。まるでそれは雨上がりに空にかかる虹のように、美しく光る。だがそれは怪しく蠢く雷雲にも似ていた気がする。
―うごけない。ぞ、っと寒気すらするほどの、深い闇と折り重なった優しい光。ガーベモンはその一瞬、己の秩序の存在を体感した。畏れ多く、動くこと叶わない。己が主と従うダークマスターズとなんら遜色ない、むしろ、それ以上の孤高なる、闇を感じた。
その、わずかに動きを停止した、たった一瞬が、彼の運命の分岐点となる。
「コキュートスブレス!!」
冷えた空気が、雪崩れ込む。それと同時に、完全に動きを停止していたガーベモンの表情が凍り付いた。表情だけだはなく、体全体も。それはまさしく、物理的に。
ぴき、と音をたてた。ぴきぴき、と更に音を立てる。―そうして、あっけなく、ガーベモンの体は砕け散った。
あの瞬間、恐れをなすことなく動きをつづけていたのなら、もしくはヒカリとテイルモンを仕留めることができていたかもしれなかった。だが彼は屈したのだ。まさに闇を受け入れた守人の負からなる祈りによって。
「――はぁ、っ…はぁ……っ」
荒い息を吸っては吐く栞の視線に映し出されたのは、砕け散ったガーベモンの背後から現れた一体のデジモンだった。
「メタルガルルモン…!!」
手前で吸い込まれるちからをなくして地面へと倒れるヒカリの隣で、同じように倒れ込むテイルモンがその名を呼んだ。安堵の息が声に交じっていたので、ヒカリが助かったことによる安堵感と、そして助けてくれたのが仲間であるという安堵感に包まれていたのだろう。
メタルガルルモンがいるということは、もちろん、続いて現れたヤマトにも歓喜の声があがる。
その、彼の表情には、誰も気には留めない。
―――…来るな、俺を放っておいてくれ!
―――…俺はお前を見捨てようとした!
―――…今の俺じゃ、お前を守れない。
思わぬところの仲間の助けによって歓喜する子供たちが一斉にヤマトの方へと駆け寄っていく中、栞はその場に取り残された。彼の言葉が脳内で反芻される。
―きっと彼は。もう、こちらには。
「ヤマト!」
「ヤマト!!お前今までどこ行ってたんだよ!?」
喜びながら近づく太一の背後でメタルグレイモンがアグモンへと退化する。
「サンキュ〜〜!ほんと危ないところだったんだ〜!ありがと〜〜!」
助けてくれた仲間に対してよろこび、どこかおかしいと思いながらもアグモンは彼に駆け寄る。沈黙を貫くメタルガルルモンに、そうだ、言葉がなかったんだ、と気づいたときにはもうすでに遅かった。
アグモンは足を止めた。メタルガルルモンの瞳が青く輝き、そこから発射された光線がアグモンの足元に寸分の狂いもなく撃ち込まれたからだ。
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