126 無知に滴る黒
「じょ、冗談はよせよ、ヤマト!僕たち仲間じゃないか!?」
尋常ではない険悪とした雰囲気に、丈が慌てて仲裁に入る。
たった数十分離れた間に、一体ヤマトはどうしたというのだ。いや、それ以前から彼の様子がおかしいとは思ってはいたが、その時は自分たちに敵意を向けてはいなかった。この違いは、なんだ?一体彼を何が突き動かすというのだ。先ほどは感じられなかったある種の決意を読み取って、だがそれは自分たちにとってあまり良い決意でないと感じ取った。
「仲間?」
「そうだよ!仲間だよ、選ばれし子供たちの仲間だよ!」
ヤマトの持つ紋章は“友情”。ならば、彼の本質は友を想う気持ちであふれているはずだ――そう思い、必死に説得を試みる丈をあざ笑うように、ヤマトは鼻を鳴らした。微塵もそんなことを思っていないとさも言いたげに、子供たち一人一人に視線を送る。
「じゃあ聞くが、一体誰が俺たちを選んだんだ?」
「…それは…」
「分からなくてどうして仲間だって言えるんだ!」
「それは…そうだけど…」
何かを言わなければヤマトを止められないと思いながらも返す言葉が見つからず、丈は言葉に詰まってしまった。おそらく、彼は気づいた。何を言っても、もうヤマトに自分の思いが届くことはないのだ。
確かにどうして自分たちが選ばれし子供たちと呼ばれるのか、彼らは知らない。一番この世界のことを知っているであろうゲンナイに尋ねた時もうまくはぐらかされてしまった。だが選んだのが誰かなんて、今の話に関係あるのだろうか。選ばれた理由が分からないのと、仲間であるのと、どう関係してくるのだろうか。 ヤマトの言い分は余りにも暴挙が過ぎる、と太一は眉を寄せた。そうしてわざとらしく大きなため息をつけば、分かりやすいほどヤマトは反応を見せた。
「丈、説得しても無駄さ。ヤマトはこういうやつなんだ」
「こういうやつ…?お前に俺の何が分かる!?」
「分かるさ。ようするにいじけてんだろ!自分の思うようにならないから」
湖に浮かんだ、太一の笑顔を思い出す。本当の敵は誰か、と囁くジュレイモンの声が耳元で反響した。―後戻りができなくなる、とどこか冷静に考える自分もいたが、それでもこの感情を抑えることができなかった。
ずっと、太一に抱いていたこの感情は、恐らく愛憎であった。仲間だから、友達だから、――そう思いながらも止めることができない彼への羨望。やがてそれは嫉妬に変わった。何でも出来る太一、前へ進んでいける太陽のような存在。そんな太一と対照的に、何一つ、人に誇れるものなど持たない自分。
もちろん、そんなことは何一つありはしないのだ。太一には太一の、ヤマトにはヤマトの良いところがある。だが大人になりきれていない彼は、まだ客観的に自分を判断することができない。その、結果だった。
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