どことも知れない場所へと飛ばされ、どれくらい彷徨ったことだろう。気づけば彼らは深い霧の中に身を寄せ合っていた。
長い浮遊感に、くらりとしためまいを感じたが、栞は他の子供たちよりも先に覚醒し、辺りを見回した。傍にはバードラモンと寄り添うように空がいたから、おそらく、飛ばされた際、空を守るのと一緒に栞のことも守ってくれたのだろう。
「…ここ、は…?」
「栞、大丈夫?」
デジタルワールドに戻り、何度この言葉を耳にしただろう。現状、大丈夫かどうかなど自己判断できないものの、自分自身、特別怪我などしていないのだから、その意味を用いて頷けば、イヴモンは厳しい表情のまま頷いてくれた。彼がこんな余裕のない表情をしているということは、飛ばされたこの場所は安全ではないということか。怖い、という感情よりも前に、もっと別の感情が芽生えていくのを感じ、激しく燃える炎が胸に宿る。
「みんなは」
怯えた様子などどこにもない。キリリと引き締まる大きな瞳に、恐怖などどこにもない。イヴモンは少しだけ眉を下げ、それからあたりへと視線を向けた。
各々が己のパートナーに寄り添って、気を失っている様子だった。無理もない。ヴェノムヴァンデモンと戦ってすぐこちらに戻ってきたと思ったら様相は変わってしまっていて、究極体デジモンの洗礼を受けたのだ。疲労もある、困惑もある。そして、恐怖も。
その時、大きな翼を持ったエンジェモンが身じろいだのを見て、栞は一歩前へと出ると、彼はこちらに気づき、少し困惑したように目を明け、それから自分の腕の中へと視線を向ける。―ちゃんと、そこで息づいている。大切な存在が自分の腕の中にいることに安堵し、エンジェモンはその小さな体をいたわるように声をかけた。
「…タケル怪我はないか?」
「…ううん……、うん、大丈夫だよ、ありがとうエンジェモン」
自分を気遣うエンジェモンの声に、少し固さは残るものの、タケルは小さく笑う。エンジェモンは安心し、小さく頷いた。
「栞も、イヴモンも怪我は?」
「私たちも、大丈夫だよ」
「そうか、よかった」
見たところ、特に異常はなさそうだ。天使は少し表情を和らげた。栞もその様子に少しだけ柔らかく口角をあげた――はずだが、すぐにその表情が厳しいものへと様変わりする。
「――!」
「栞…?」
「…なに、か」
ぴくり、と体を揺らし、背後を振り返ったのは栞だった。赤い目は依然、そのまま。(…“なに、か”?)その視線は今までの彼女からは想像がつかないほど、鋭い。エンジェモンは同じように背後を振り向き、そして、(……何かが、いる)それは確信へと変わる。
戸惑ったようにタケルは二人と同じ行動をとり、振り返ってみるも、そこにはもちろん何もいなかった。だからこそ険しい表情のエンジェモンが気にかかる。
「どうしたの…?」
不安げに問いかけるが、エンジェモンはタケルの体を地面へおろして、己の錫杖を手にとった。
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