「アグモン、ワープ進化ァ!!――ウォーグレイモン!!!」


 かつて、ヴァンデモンと対峙したとき、この二体が究極進化したことがどんなに心強かったことだろう。守人の願いを受けた弟妹の希望と光を、兄たちの勇気と友情がしっかり手を繋ぎ、ここまで進化を果たしたというのに。自分たちは仲間同士で争うためにこの進化を得たわけではなかったはずだ――その時の気持ちを思い出してくれ、と言わんばかりに、ウォーグレイモンは声をあげる。


「止めろ、戦う理由はない!!」
「そっちにはなくてもこっちにはあるんだ!!」


 攻撃を仕掛けるメタルガルルモンの瞳の中の闘志は、どこか、哀しく揺らぐ。――彼はただ、ひたすら、ヤマトのために。そしてすぐにその心を揺らぎを隠した。その理由に気づけないまま、二体の究極体デジモンは地面をけり上げ、一気に高く飛躍した。恐らく、このまま地上で戦いを繰り広げれば、子供たちを巻き添えにしてしまうと踏んだのだろう。
 二体が宙へ飛んだ衝撃で、木の葉がひらひら空を舞い、子供たちは顔を覆い隠した。
 空中で繰り広げられる熾烈なその戦いを、当事者であるヤマトは何とも言えない表情で見つめていたのを、栞はしっかりと見ていた。


「―やっと戦う気になったか!」


 
 ようやく乗り気になったのか、と笑顔を太一に向けたその時、鈍い音がひびいた。あまりの唐突さに、周りで二体と二人の様子を心配そうに見ていた子供たちはもちろんのこと、張本人であるヤマトでさえ何が起こったのか判断出来なかった。
 ヤマトの頬めがけ、太一が拳を振り落としたのだ。太一は見るからに激昂していた。


「どうして殴ったか分かるか!?」
「…っああ!俺たちも戦ろうってことだろう!?」
「ッ馬鹿野郎――!!」


 太一の気持ちを理解できていない、いや、もしかしたらしようとしないヤマトに対し、もう一発、太一の拳が襲い掛かった。その衝撃で足元がふらついたヤマトだが、何とか踏みとどまり、太一を鋭い眼光でにらみつける。
 

「馬鹿野郎で悪かったな!!!」


 プライドが衝突し合うたび、鈍い音が次々に響き渡った。やられてはやり返しの繰り返しで、二人とも顔には痛々しい跡が残る。
 栞はただ、その光景を見つめる。アムモンと話をした時に、もう何を見ても、心を動かさないと決めた。ありのままのすべてを受け入れると決めたのだ。きっと二人のこの攻防も、これから先を乗り越えていくためには必要なことかもしれない。そう思って、ただ目の前の情景を受け入れた。それはまるで車に乗って眺める、外の景色と同じだ。何をしなくても、流れていくだけなのだ。それでも、辛いと感じるのは何故だろう。まるで全身を引きちぎられるかのように痛みを感じるのは何故だろう。
 彼女と別れたあと、ヤマトに何かがあったのかは明白だった。誰かに入れ知恵をされたのか、それとも自分で見つけたのかは定かではないが、抱えた闇を一人だけで受け入れることの辛さを知ってなお、彼は別離という道を選んだのだろう。


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