127 導くために私は在る
「二人ともやめるんだ!」
「やめてくださいっ!!」
「太一、頭を冷やして!」
制止の声がかかるが、太一は拳を握りしめたまま、止めた彼らに怒鳴るように言った。
「っお前ら全然分かってないんだな!このパンチは俺のパンチじゃない! ピッコロモンの代わりだ!!」
“ピッコロモン”――その名が出るとは思ってもいなかったのだろう。ヤマトはわずかに目を見開いて、思わず体がかたまる。襲い掛かる衝撃への準備すらできなかった。
太一が激情したのは、単にヤマトが拗ねていたからではなかったのだ。
なぜ分からない。
どうしたらこの肩に降り積もる、彼らの最後の願いを、無下にできる。彼らの唯一の願いを、足蹴りすることができる。
「これはチューモンの! ――そしてホエーモンの!!」
みな、自分たちを守り、そして望みを託して死んでいった。その気持ちを汲むことが、彼らへの餞なのだ。
空洞に手を合わせたところで、それが彼らの慰めになるのか。嘆き、悼むことで、彼らは報われるのか。――そうじゃないだろう。怖くたって、怯えているだけでは何も変わらない。それどころか事態は確実に悪くなる一方だ。前に進まなければ。選ばれし子供としての責務がそこにある。
ヤマトは耐え切れず、地面に手をついた。その胸倉をつかみ、自分の方へと向ける。
「ヤマト!俺たちのために死んでいった連中が、こんな無意味な戦いを望んでいると思うのか!」
たくさんのデジモンとの出会いがあって、それと同じ分だけの別れがあった。彼らの顔が、最後の声が頭に浮かぶ。太一の目にはうっすらと涙が浮かんだ。
呼応するように、ヤマトの瞳からは大粒の涙が零れ落ちた。その思いを噛みしめるように、唇をかんだ。その表情で、太一はどこか肩の荷が下りた気がして拳の力を緩めた。
「……分かってくれたのか?」
その瞬間だった。
「分からねえよ!俺だって分かんねえんだよォッ!!」
振り払うように太一を殴り、立ち上がった。
彼の頭の中も、気持ちも、まるで子供が画用紙に描くイラストのようにぐちゃぐちゃで、何もかんがえられない。
「ああ――っ!!ああっ!!くそっくそォッ、くそォォ―――!!」
それは、ヤマトの葛藤でもあるようだった。恐らくは無意識のうちに拳をふるい、太一に殴り掛かっていた。そうすることで、自分を正当化するようにも、自分自身を支えているようにも見えた。
太一が無意味といったこの戦いの果てに残るものは一体何なのだろうか。誰にもその答えは分からない。頭上でも同じようにウォーグレイモンとメタルガルルモンが戦いを続けていた。眩い閃光だけが、彼らにもとへ届けられる。
「どうしよう…っ」
「止めなきゃいけないけど…!」
「究極体のウォーグレイモンたちをワテらが止めれるとは思いまへんし…」
デジモンたちはデジモンたちで葛藤していた。進化をしても最終進化が完全体である彼らに、究極体の争いを止めることは不可能に近い。圧倒的戦力の差がある。「気のすむまでやらせたら?」と、そこに冷ややかにも思えるテイルモンの声が響いた。
「おい!お前には仲間を思うって気持ちがないのかよ!」
「あれば止められるとでもいうの?」
「えっと…それは…」
「だったら黙って見ているしかないじゃない」
至極冷静に言い返され、しかもその内容が正論だったので、ゴマモンは反撃することができなかった。悔し気に去っていくテイルモンの後ろ姿をにらむほかない。
「くそぉ、新入りのくせに〜〜!」
「よしなはれ!あんさんたちまで喧嘩することないでっしゃろ!?」
これ以上のもめごとは勘弁だと言わんばかりのテントモンに、ゴマモンはやっぱり悔しそうに黙るしかなかった。
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