「何を言ってるんだ、ヒカリ?」


 だがその言葉は彼女のパートナーによってすぐさま否定された。


「…ヒカリが言ってるんじゃないわ」
「誰かがヒカリさんの口を通して僕たちに語り掛けているんです」


 “ヒカリ”はやがてゆっくりと振り返り、子供たちを見渡した。


「“私”はデジモンワールドの安定を望むものです」
「もしかしてあなたがデジモンワールドの神様なの?」
「そうではありません」


 丁寧な語調だが、きっぱりと否定を口にして首を横に振る。 


「私もデジモン同様、データから出来ています。ただ、デジモンと違うのは私たちは物体化できない、つまり自分の肉体を持てないのです。だからこの方の体をお借りしています」
「どうしてヒカリなんだ?」
「私の言葉を中継できるのはこの方だけです」


 そういえば、ヒカリはずっと声が聞こえると言ってはいなかっただろうか。太一からしてみたら、昔からヒカリは時々不思議なことを言うこともあったし、どこか妹はある種特別な存在だとさえ思っていた。別段気に掛けることでもないと思っていたので気にも留めなかったのだが。
 子供たちは息をのんで、彼女を見つめた。目の前にいるのは確かに八人目の選ばれし子供―自分たちが知っているヒカリに他ならないのに、その中身が違うというのだ。


「本当はあなた方がファイル島にいらしたとき、すぐにでもお話したかったのですが」


 “ヒカリ”はゆっくりと息を吐き、それから少しだけ眉尻を下げた。その時、彼女の視線が不意に後ろへと向けられたが、それは一瞬だけのことで直ぐに反らされてしまったので子供たちは誰に向けられたかまでは気づくことができなかった。
 ふ、と重力に逆らって体が浮く感覚があった。突然彼女は腕を振って宙に浮かぶと子供たちも同じように中に浮かび上がった。小さな悲鳴があがる。
 星々がちりばめられた夜空の中を、まるで流れ星になったかのように、文字通り飛んでいくと――。


「あっ!あれは――!」


 太一の目に飛び込んできたのは、在りし日の自分と妹の姿だった。そしてその傍らに佇む一人の少女もいる。あの日と何も変わらなかった。「あ、あの電話をかけているのは僕だ!」「あれはあたし!」と、他の子どもたちも己を見つけはじめる。


「皆さんのデータをスキャニングしているところです」
「一体何のためにそんなことを…」
「順を追って説明しましょう」


 そのまま彼らの体はゲートの中に吸い込まれていくデジモンたちと同様、光の輪の中心にむかっていった。暗闇に慣れた瞳は、眩い閃光のせいでくらりとめまいに似た感覚に襲われた。
 そうして気づいたときには、薄暗く、どこかの研究所のような場所にいた。恐らく、先ほどと同じように何かを見せたくて、『ヒカリ』が連れてきたのだろうと推測できた。

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