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「あ…これヴァンデモンの地下にあった石板だ…」
「ゲートもある!あの部屋だわ」


 部屋の中を散策し始めた彼らの前に鎮座していたのは、見覚えのある大きな鉄の扉だった。かつて、この扉から東京へ戻ったことを思い出す。これについて、『ヒカリ』は何も言及しなかった。


「でもあの人たちは何をしてるんだ…?」


 子供たちの目の端に嫌でも映り込むローブ姿の大人たちは、黙々と作業をしていた。


「この世界が暗黒に囚われた時の準備をしているのです。あのお方が、最後に残してくれた『光』のもとで」


 それは、厳かに告げられた。
 その時、真っ直ぐ、『ヒカリ』と『彼女』の視線が重なる。混じり合う視線の中で、確かに何かが生まれた気がしたが、それは音もなく空気の中に溶けて消えていった。


「まず私たちはみなさんのデータからデジヴァイスと紋章を作りました」
「作った…?」
「てことは、俺たちを選んだのはあんたたちなのか?」
「――…そうです」


 一拍置いて、彼女は頷く。


「どうして俺たちが選ばれたんだ?」
「もちろん、あの場にこの世界の秩序である方々がおられたことは大前提ですが。太一さんとヒカリさんは現実世界に紛れ込んだデジモンを進化させましたね」
「勝手に進化したんだよ」


 その言葉を受け、『ヒカリ』はゆるゆると首を横に振った。


「勝手に進化することはないのです。つまりあの進化は偶然ではない。あなた方といたからグレイモンに進化出来た」
「でも…俺達何もしてないぜ?その時は栞のことなんか知らないし、デジヴァイスもなかったし…」
「デジヴァイスをただの進化の道具とお考えなら、それは間違いです。デジヴァイスはデジモンを皆さんの特質にあわせて正しく進化させるためのもの。紋章も同じです。それぞれの紋章の意味はご存知ですよね?」


 もちろんだ、と子供たちはそれぞれの紋章を掲げる。


「俺のは勇気だ!」
「私のは愛情…」
「純真!」
「知識です」
「誠実!」
「僕のは希望の紋章だよ!」


 次々と子供たちが己の特質を告げる中、一人だけ暗い表情をしていた―ヤマトは紋章を握りしめ、言葉に詰まる。


「おれ…は…」
「友情、だったよな?」


 笑顔でぽんと肩を叩いたのは丈だった。
 丈はあの時、ヤマトの友情に救われた。そのことを忘れることなどできはしない。不器用な彼が示した真っ直ぐな友情を、ヤマトにも思い出してほしかった。光を失った彼の紋章の意味を、取り戻してほしかったのだ。


「それらは四年前の皆さんが持っていた最も素晴らしい個性です。でも皆さんがそれを失っていたらどうなりますか?もしかしたらデジモンを悪用するかもしれない。またその素晴らしい個性をはき違えたとしたら…」
「あ…もしかして……」


 太一の脳裏をよぎったのは、スカルグレイモンの姿だった。新たに降り立ったサーバ大陸で誰よりも先に紋章を手に入れることができた喜びから、己の大事な特質をはき違えた時のことを思い出して苦虫を噛み潰したような表情を浮かべた。いい思い出ではない。できれば思い出したくないレベルの過去だ。あれは彼の人生の中でも大きな汚点でもあったのだ。―だが忘れていいわけなかった。


「あの時…俺はグレイモンを超進化させようとして敵のグレイモンの前に飛び出した。だからアグモンはスカルグレイモンになっちまった…。あれは…間違った勇気……」
「そうです。やっと気づいてくれましたね?」
「てことは、僕等はもともと持っていた自分らしさを再発見するために苦労してたってわけだよな…」


 ヤマトは一人、再びデジタマが保管されているガラスケースの前へとやってきた。その表情は重苦しく、彼がいかに苦悩しているのかがうかがい知れた。「ヤマト…」腕の中で、ツノモンは心配そうにヤマトを見上げる。それ以上、彼にはかける言葉が見つからなかったのだ。
 ふ、とヒカリの柔らかな匂いが鼻をくすぐった。彼女はヤマトの横に立ち、彼と同じようにデジタマを見つめる。何を思っているのか、やはりうかがい知れなかった。


「でも…太一さんとヒカリさんは分かるけど、僕たちはデジモンを進化させたわけじゃないし…同じように栞さんとも面識はありませんでした」
「皆さんのデータを検討した結果、太一さんとヒカリさんのデータと共通するものがあったのです。それが何を示しているのか、私たちにも謎ですが…」


 彼らを選んだ者にすら、理由は知れないという。ならば、誰も知る由はない。その答えは恐らく、神のみぞ知るのだろう。

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