この先を真っすぐ行くと眠りの森と呼ばれるところがあって、悪い魔女が住んでるんだ。一度迷い込んだらさあ大変。悪い魔女の罠に引っかかっちまうと、もう二度と外には出られなくなる。魔女はトロールや狼たちを従えていて、魔女が欲しがるものは全部あいつらが持ってくるんだ。もし、魔女がジニーの目を欲しいっていったら、トロールがジニーの目を … 「キャアアアアアアアアア!!」
「うお!な、なんだよ、ジニー!そんな大声出すなって!ママに怒られるだろ!」
雰囲気を出そうと暗く照明を落とした部屋と、外はちょうどタイミングよく雷を伴う雨が降り出して、より一層らしさを醸し出していた。だからより一層恐怖心を誘う。ジニーはとなりのクレアにしがみつきながら、わんわん泣き出した。
フレッドとジョージは慌てて灯りをともし、弁解するようにジニーに視線を合わせようとするが、ジニーは首をぶんぶん振りながら泣いていた。
「ジ、ジニー!なんだよ、作り話だろ?そんな泣くなって、な?」
「そ、そうそう!こんなのあるわけないって!」
「ふえっうえ、」
「な、泣き止めよ、ジニー!僕らがママに怒られ、」
「こら!!フレッド、ジョージ!!何をしているの!!!」
「ゲッ!!」「ほら見ろ!!」
例えるのならばいつの日か見た絵本に描かれていた悪役の怪獣のようだった。長い髪が怒りで宙に浮いているようにも見える。悪いことをしていないはずのクレアですら、身を固めてしまう。
フレッドとジョージはほぼ同時にリアクションを取り、一目散に逃げようと腰を浮かせたのだが――出口をふくよかな体のモリーが塞いでしまっているために逃げ場がない。汗がたらりと、フレッドの額から、ジョージの頬から垂れた。
「妹を泣かせて何をしているんですか!!」
すう、と大きな息をすったモリーは、そのままの勢いで言葉すら吐き出した。つまみがあればひねりたくなるくらいのボリュームだった。フレッドとジョージはそろって耳をふさいで肩をすぼめた。ジニーはまだわんわん泣いていて、クレアにしがみついていた。そんなクレアは、ただぽかんとモリーを見ていた。
「べっ別に泣かせようとしてたわけじゃないよ!!」
「そうだそうだ!!僕らはただ絵本を読んであげてただけさ!」
「これのどこが絵本なんですか!?」
拾い上げられた薄っぺらい本には、『悪魔の館』という仰々しいタイトルがつけられていた。以前語学のためにとアーサーがパーシーに買い与えたものだが、パーシー的には幼稚だとのことですぐに下の弟であるフレッドとジョージに譲られたものだった。かといって二人がおとなしく本を読むたまではない。物語を脚色してジニーにお披露目したのだろう。
モリーは本をテーブルの上に荒々しく置くと、ぐすぐすと泣き続けるジニーに寄り添って頭をなでた。
「ああ、ジニー。ほら泣き止みなさいな」
「ふえ、えええん!ママァ…っ」
「二人ともごらん!!こんなに目を赤くしてしまって!!かわいそうでしょう!!」
ジニーに対する声は限りなく甘い音色で、フレッドとジョージに対する声は限りなく恕を含ませて。本当に同一人物なのか疑うほどだ。不公平だとか贔屓だとか二人はブツブツ言い合っていたのが聞こえたのか、モリーは目を吊り上がらせて二人を見た。「ちぇ! ジョージ、上行こうぜ!」「ああ、ロニー坊やで遊ぼう!」「フレッド!ジョージ!待ちなさい!!」二人は懲りていないようだった。というのもこれが日常茶飯事のことなので、気にも留めていないのだろう。
「ほらほらジニー。悪いお兄ちゃんたちね」
「ううっ、ふええん」
「クレアは大丈夫かしら?」
ジニーを抱き寄せ、頭をなでていたモリーの暖かな手が、クレアの頬に触れた。思わず体が強張り、表情もかたまるが、モリーが優しく撫でてくれるものだから、その暖かさにすり寄った。こくん、と無造作にうなづくと、モリーは暖かく微笑んでくれた。強いのですね、と。
「…大丈夫、です」
「そう。まったくどうしようもないお兄ちゃんたちね、」
クレアは首をぶるぶると横に振った。おそらく彼らは彼らなりに、中々溶け込むことのできないクレアを思ってくれたのだろう。
外で遊ぶ彼らに中々混じることができなくて、構ってくれるビルかチャーリーの後ろをついているようなクレアだった。今日はちょうど雨で、いつもは外で遊ぶ彼らも中で過ごすしかなかった。ひとりでぽつんと座っているクレアが目についたのだろう。すぐさま絵本を読んでもらっていたジニーを呼び寄せ、二人を座らせ、冒頭に戻るというわけだ。
「そうだわ…クレア、ジニー。今度一緒に新しい絵本を買いに行きましょうか」
「ほんとう?」
「素敵な本にしましょうね」
にっこりと笑ったモリーに、ジニーはすぐさまパッと笑顔を輝かせた。やったぁ、と無邪気に喜ぶ姿を見て、クレアは目を瞬かせる。
「クレアも新しい絵本、買いましょうね」
「……いい、ですか?」
「遠慮しなくていいんですよ。家族なんだから」
「か、ぞく、」
「はい、そうですよ。あなたも私とアーサーの愛しい子の一人なの」
撫でられる頬が暖かい。ポッと何かが胸にともった。それがかけがえのないものであることをまだ理解できてはいなかったけれど、離したくないと幼心なりに思った。
「さあ夕飯にしましょう!お手伝いしてくれるかしら?」
「はーい!」
「はい、!」
「ふふ、女の子が増えてうれしいわぁ。頼んだわね」
「いきましょ、クレア!」
「う、ん!」
パッとクレアの顔にも笑顔という花が咲いた。それは可愛らしく、とても愛おしいものだった。