ただただぼんやりと空を眺めていた。窓側の一番後ろにある机に座って、あまりにも綺麗すぎる青空を見ていた。見惚れていたわけではない。なぜだか空が無性に遠く感じたから。

ぼーっとしていると、隣の教室から怒鳴り声と外からバシャンと水が立つ音が聞こえた。その音で我に返ってなんだろうと窓から覗いてみると、鯉がいる池に浮かぶ青いボロボロのノート。

まさか、嫌な予感がする。考えるよりも先に体が動いていた。出久くんのところに早く行かなければ。きっと彼はもうノートを取りに行っているだろう。
バタバタと足を動かして昇降口へ向かう。乱雑に靴を履き替えて池に向かえば、出久くんが池からノートを取り出していた。

「出久くん!」
「あ、芹ちゃん……あはは、ぐちゃぐちゃにされちゃった」

ポタポタと水が垂れる。それはノートか、出久くんか。目を伏せて俯いたために出久くんの顔は見えなかった。きっと自嘲気味な顔でノートを見ているんだろう。絞り出された声はとても震えていた。

さっきの怒鳴り声は爆豪くんだったのか……!いい気になっちゃって……!怒りが沸々とした時に気が緩んで、いつもは見ないように制御している気持ちの色を見てしまった。

……ん?
無個性の人からはどんな色も現れることはない、はず。それなのに見えた、溢れんばかりの白色……。きっと、彼は。

「……大丈夫、出久くんはヒーローになれるよ」
「……!…そ、そう、かな……うぅ…」
「わぁぁ、大丈夫か……!」

嗚咽を殺しながら出久くんはギュッとノートを抱きしめる。慌てて近くまで駆け寄って、弱々しく丸まった背中をゆっくりと撫でる。

「ご、ごめんね……っヒーローになりたい奴が、な、泣くなんてっ……!」
「っ違うよ!」

静かな周りには嫌というほど私の大きな声が響き渡った。出久くんはハッとして大きく目を見開いた。瞳が揺れる。

「誰でも泣きたくなることぐらい、あるよ。それに、出久くんは絶対心優しいヒーローになれる。ヒーローは、個性を持ってるだけじゃだめだと思うんだ」
「……」
「だから、自信持って、君なら大丈夫だ!」

そう言ってノートを持っている出久くんの片手をぎゅっと握りしめる。今度は恥ずかしそうに「ありがとう」と言って目に涙を浮かべながら、はにかんだ顔が見えた。大丈夫。

出久くんに涙は似合わない。笑っていてほしいんだ。ヒーロー。

そう思ったのは、青空が綺麗に透き通っておだやかな昼間だった。
白は何にでもなれる色。出久くんには可能性があるときっと言っているんだ。

お願いします。出久くん…彼ならかっこいいヒーローになれるから。


 

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