ガンッと鈍い音が聞こえた。いや、正しくは自分から発していたようだ。頭を強く机に打ち付けたみたいだ。おでこを痛かったなと思ってさすさすと撫でる。それにしても、ちょっぴり懐かしい夢を見た気がする。

……眠いなあ。

ひらひらと落ちている桜を横目に見ながら、あぁまた春がやってきたんだなぁと少し物思いにふけって再び机に突っ伏す。雲が点々とある澄み渡る青空に桜色が映えて、とてもきれいだ。
白と青と桜色の目に優しいコラボレーション。あたたかな日差し。よく眠れそうだ。

今日は雄英高校の入学初日だから昨日ばっちり寝たはずなのに、眠い。そして何よりお腹が減っていたから桜を見ていたら桜餅が食べたくなってきた。塩漬けの葉っぱに桃色のお餅……素敵……!

ぼやぼやと浮かんでいた考えが一気にクリアになっていく。そうだ、食べたいなら食べればいいじゃない!とどこからか聞こえてきた。マリー・アントワネットかよ、と自分で突っ込みながらも、そういえば桜餅を持ってきていたんだと思い出して早速鞄から取り出した。

「おー、入学早々桜餅食ってんのかあ?」
「どっひゃあ!なんぞい!」

ひょっこりと後ろから覗き込んできた髪の毛も瞳も真っ赤な少年。髪の毛が逆立ってツンツンしている。いきなり視界に現れた赤に必要以上に驚いてしまい、変な言葉を発してしまった。

「なんぞい…?いやー、入学初日から友達を作るわけでもなく頭コクコクさせて机に突っ伏したかと思ったら、今度はしゃきっとしてカバンから桜餅取り出して食べてる変な奴いるなーって思ったから」
「え……なんか私いきなりディスられてるんだけど……泣ける……」

ヨヨヨ……と泣いているフリをして、でもそんなに変なやつに見えたのかとショックを受ける。あ、でも赤髪少年、声かけてくれたぞ。これは、お友達になるチャンスなのでは…!

「本当!?そうだ!お近づきのしるしに!」

はいあげる!と言って後ろを向いて半ば強制的に彼へ桜餅を渡した。

「お……?桜餅くれるのか......?」

少し疑問を抱いた顔をした赤髪少年はまじまじと桜餅を見る。うんうん、それにしても赤髪君はいい反応だ。面白い。私は我慢ならないので先に桜餅をもぐもぐと食べる。

「おいひいからはへてみんひゃい!」
「何言ってるかわっかんねえ!けどいただきまーす!」

そういうとムシャムシャと勢いよく赤髪少年は桜餅を食べ始めた。いい食べっぷり。
私も最後の一口を自分の口の中に放り投げた。甘くしっとりとしていて、おいしい。

「おいしかったー、腹が減っては戦はできぬ〜」
「すっげーおいしかった!」

あれ、早くないか……?と思いながら赤髪少年を見ると手にはもう何も残っていなかった。そして目をキラキラさせながら「ありがとな!」とお礼を言ってくれた。とってもいい人だ。私も嬉しくなってつられてニコーっとしながら「どういたしまして!」と元気よく返事をした。

「そういえば!お名前なんて言うの?」

突然の話だったからか赤髪少年はきょとんとした顔でこちらを見た。あ、話の切り替え方下手だったかな。さっきは頭の切り替え早くできたのに。不覚。

「あっ、私名乗ってなかったね!私、涼村芹っていうんだ、よろしくー!」
「そういえばそうだったな!俺、切島!切島鋭児郎っていうんだ、よろしくな!」

そういいながら赤髪少年、もとい切島くんはニカッとしてよろしくしてくれた。やったあ、友達第一号。

そんな時、がらっと教室の扉が開いたので前を見てみると、私には見覚えのある緑のふわふわ頭が特徴的な出久くんが来た。

「わぁ、出久くん……!」

と声を漏らして席を立とうとしたら「机に足をかけるな!」と潔い通る声が聞こえた。なんだなんだ……?と端の方を見てみるとニヤッとして「あぁ?」と声を発した爆豪くんに注意をしているネイビーの髪の毛の少年が見えた。
てか爆豪くんいたんかーい、全然見てなかったや。でもやっぱりいるよねー。と思いながら変に目立ちたくなかったので、立たずに大人しく座ったままにした。

「製作者方に申し訳ないと思わないのか!?」

そうくるか!ごめん、私も考えたことない!どっちかっていうと机がかわいそうだなって思う!!
同じくツボに入ったのか後ろの切島くんもぶふっと空気を漏らしていた。

「製作者って……」
「私も思った。いい発想してるねえ……うんうん」
「いや、やっぱ涼村も変な奴だわ」
「桜餅返せ」
「わー!腹パンしようとするな!」

まあ、机あるから腹パンできないけど。
こちらはこちらで小さな乱闘を繰り広げていると「思わねえよぉ、テメェどこ中だよぉ!?」と爆豪くんのドスのきいた声が教室に響いた。

ど・こ・中!きゃあ、ヒーロー科に不良がいるわぁ!
と思いながら笑いをこらえていると、私も腹パンしようとしてたわ。あんま変らないじゃん、と突然冷静になりテンションが下がってしまった。はあ、とため息をついて肘鉄砲しながら「いやー青春だね」と呟いた。

「いやいや、どこが青春だよ」
「アオハルアオハル」
「それ言えばいいと思ってるだろ!」
「あ、ばれタンバリン」
「あれ、この子変っていうかちょっとめんどくさいかも」
「ごめん、めっちゃ謝るから許して」
「…ぶふぉ!おもしれーなー!」
「許すまじ」
「なんでだよ!!」

そんなことを言っていると耳に「ぶっ殺しがいがありそうだなぁ!!」となんとも物騒な発言。さすがの私たちも押し黙って「……ねえ、ここヒーロー科だよね。」「……俺も思った」と思わず確認しあってしまった。どちらかというと悪者がいますよ、せんせー!

言い合っていた(?)爆豪くんとネイビー少年だったけど、二人がドアの方を見てネイビー少年が「君は……」と言って出久くんにずんずんと近寄っていく。おお、出久くん、めちゃめちゃキョドってる!!がんばれ!!
ネイビー少年が自己紹介を始めようとした時、出久くんが「聞いてたよっ!」と言って制する。自己紹介してたのか……!私が聞きたかった!このままじゃネイビー少年のままだ!

「ぼ、僕、緑谷!よ、よろしく、飯田くん!」

なるほろ、ネイビー少年は飯田君というんだ。ふんふん。

「緑谷くん……君はあの実技試験の構造に気づいていたんだな……」
「へ…?」

飯田くん、たぶん今の出久くんの様子だと気づいてないよ。すっごい顔ひきつってるよ。ちなみに、私も全然知りませんでした!なに!?構造って!?
出久くんの様子に気づいていない飯田君は「どうやら君の方が上手だったようだ……!」と言って出久くんに話しかけていた。でもなんかいい感じだし、いいんじゃないかな!

「おお!そのもさもさ頭は!地味めの……!」

と今度は栗色のショートカットで横髪がちょっと長めの子が登校してきた。かわいい……!ショートが似合う子めちゃめちゃ羨ましい……!!

「お、どうした今度はへなへなしながら机に突っ伏して」
「ショートが似合う子って、いいよね……」
「いきなりなんだよ!涼村の黒髪でストレートなのもいいじゃねえか!」
「ぐっ……な、なんか……心にくるものがあったよ……ありがとう、少年……」
「死ぬなー!涼村−!」
「茶番だね、ごめん」
「いきなり真顔になるなよ!!」

にしても出久くん今度は顔真っ赤にしてるなあ。ショートの子がかわいくて照れてるのか!出久くんもかわいいか!手なんかで顔隠しちゃって!ちくしょう!

ふと二人の足元を見てみると、黄色いミノムシが……ミノムシ!?!?
しかもなんかもぞもぞしてるし……なんだあれええええっと思っているとミノムシさんから「お友達ごっこしたいんならよそいけぇ。ここはヒーロー科だぞ。」とけだるげな声と共に人が脱皮した。……ミノムシさん、顔色悪いなあ。大変なのかな。

「ここまで8秒かかりました。時間は有限。君たちは合理性に欠くねぇ。」

前に立っている三人はいそいそと自分の椅子に着席した。私も人のことが言えず、うっと思いながらすごすごと前を向く。
ミノムシさんは教員名簿を取り出して、「担任の相澤消太だ。よろしくね。」と言った。み、ミノムシさんが担任だったとは!ごめんなさいと心の中で謝る。

「…早速だが、これ着てグラウンドへ出ろ。」

バサッと相澤先生が取り出したのは、おそらく……体操着……?よろしくして早速体操着着てグラウンド……本当に早速だなぁ、先生。
ふと先生が合理性がなんだかと言っていたのを思い出して、あ、やばいこれは早くしないとまた怒られそうだと思い、早く着替えるべく体操着を取り出して更衣室へと移動した。

……それにしても、おなかすいてきたなぁ。

 

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