「ねぇねぇ!すごいんだねぇ、君の個性!」
「へっ?」

とことこと私に近づいてきてくれてそう声をかけてくれた。栗色ショートカットの少女。
前髪が短くて顔がはっきりと見える。にこにことした顔が私に向けられていて、あ、話しかけられてるんだ、と理解した。

「そ、そんな!えへへ……」
「私、麗日お茶子っていうの!話せる人がなかなかいなくて……」
「わ、私も実はまだ全然みんなと話してなくて……。涼村芹っていうの!よろしくね、お茶子ちゃん!」
「芹ちゃん!お話しできる子ができて嬉しいな〜!」

わ、わぁ、またお友達が……!嬉しいな……!さっきまでは負の感情がぐるぐる回っていたが、お茶子ちゃんの笑顔を見ていたら、つられて私まで口元がゆるりとほころんでしまった。この子の笑顔は最強のようだ。

「それにしても!さっきの個性!風を操ってたの?」
「うん、うまく風を起こしてボールが気流に乗ってくれたらいいなぁって思って……」

そこまで言ったときにハッと思い出した。私、周りのこと考えずにすごい強風を捲し立ててた気がする……!

「ご、ごめんね!そういえば私、すごい風吹きたててちゃってたよね!?わぁぁどうしよう、みんなの目に砂ぼこりとか、飛んできたもので強打とかしちゃってないかな……!?」
「わわ、芹ちゃん、落ち着いて!みんななんともなさそうだから大丈夫だよ〜!」

あたりを見渡してみると特に気にしていないようで、各自次の体力テストに臨んでいた。よかった。

「芹ちゃん、すごく難しい顔してたから心配したんだ……」
「へっ、あ、顔に出てた……」
「ものっすごい!」

こんな感じだったんだよーと見せてくれた私のどんよりとした真似。背中が丸まって髪の毛がだらんと前に落ちている。え、私こわ。

「やばいやつじゃん、私……」
「でも今話してて、とってもいい子ってわかった!芹ちゃんはデクくんと似てるんだね!」
「い、出久くんと?」
「?出久くんってだれ?」

ああそっか。さっきの爆豪くんの呼び方しか聞いてないからわからないのか。

「デク、は本名じゃなくて爆豪くんが呼んでる…うーん、ニックネーム?みたいなものだよ」
「ありゃ、そうだったのか!」
「うん、緑谷出久っていうんだよ、本名は」
「そうなんだ…!でも、デクってなんか元気出そうな名前でいいよね!」

その言葉を聞いてぽかんとしてしまった。今まで爆豪くんが出久くんをのけ者扱いするために呼んでいた名前だったけど、そう思ってくれるとは。知らず知らずのうちにニコニコとしてしまった。心の内がポカポカする。

「その言葉、直接出久くんに言ったら絶対喜ぶよ」
「本当?今度言ってみようかな!」
「うんうん!」
「残りの体力テスト頑張ろうね!」

うん!と大きな声で返事をして別れた。次は……50m走かー。これも風で背中押してもらえばいいかな。あ、一人だったらだけど……誰かと走るんだったらこれは無理だなぁ。

「涼村、上鳴。次お前らだ。準備しろ。」

ひぃぃ、よりによって個人じゃなかったぁぁ。どうしよう、どうやって乗り切ろうかな……!
うむむ、と頭を捻らせていると「お前、さっきの風女……!」と少し驚いた声が聞こえた。こりゃまた髪の毛がド派手なお色をしている。今度は黄色か。

「へ?やだなぁ。私風邪ひいてないですよ」
「ちげぇ!そっちの風邪じゃない!ウィンドウの方だ!」
「あちゃーそれ窓だわ、人違いだわ」
「うわーすまん!しくった!」

何をしくったんだ。
さて、どうしたら速く走れるかな……。筋肉って確か、刺激みたいなので動いてるんだよね。足くじいたときとかにも静電気治療みたいな感じで患部に電気ピリピリあてられたしな……。おお、そうだ、電気をふくらはぎに走らせたら筋肉強くなるんじゃない!?うっわ、私天才なのでは。
自分のひらめきによくできました!と花丸ハンコを想像で押していたら、位置について!と機械の声が聞こえた。あ、やばい、なにも準備してない。
位置についての声が聞こえてなかったのか、隣の黄色少年は構わず私に話しかけてきた。

「なぁなぁお前、風の個性なのか!?」
「あ、あの、もう走るの始まるから」

よーい!

「風起こさないのか―?」
「おーい!君聞こえてないの!?」

どん!

「うわぁぁ、始まっちゃったじゃん!」

ええい、イチかバチか!
黄色の電気を思い浮かべて手のひらにバチバチっと電気を走らせる。

「うわやっべ、すまん……ってお前!それ!」

私の手のひらを見てすごく驚いたように黄色い少年はわたしをみる。
ごめんね!少しでもいい記録残したいからさ!電気を帯びた手でバチンと両方のふくらはぎをたたいて、急いでスタート地点から離れる。ちょっと電気が強すぎた気がするけど気にしない!

足が軽くなったようでふわりと足を動かすことができた。電気刺激によって興奮状態になった筋肉がよく動いてくれているみたいだ。よしよし!このままいければそれなりにいいタイムになりそうだ……!

しかし、ものとはうまくいかないことが多いらしい。

残り10mのところでふくらはぎがぴきっと攣り始めて、足を踏み出すたびに後ろ脚のふくらはぎに激痛が走った。尋常じゃないくらいに筋肉が縮小して伸びきっている。君ら元に戻るってことを忘れたのか!

「あいだだだだだだ!!」

悲痛な声をあげながらも走り続け、私はゴールに到着した。もう何も考えたくなくて、へなへなと地面に倒れこんだ。いやもう正直だめです。バタバタと後ろから走ってくる音が聞こえて、頭上にいきなり影ができたなと思い顔をあげると、黄色少年が私の顔を覗き込んでいた。

「……お前大丈夫か……?」
「うぅ……面目ない……」
「ほら、あったけぇタオル持ってきたから……!」
「て、天使か、君は……!」
「天使!?」

とりあえず肩貸すよ、と言ってくれたのでお言葉に甘えることにした。黄色少年の肩に手を置いてゴール地点からひとまずひょこひょこと離れた。近くにあった木の根元に腰を下ろして、膝を伸ばして緊張しきった足に温かいタオルを当てる。
ああ〜じんわりと筋肉がほぐれていってる気がする……。今までちゃんと鍛えてなかったくせに、いきなり雑な使い方してごめんねと筋肉に心の中で謝った。そこでいまだに不思議そうにしている黄色少年が訪ねてきた。

「お前、風の個性じゃなかったのか?」
「あー……風も起こせる。し、電気を出すこともできるよ」
「なんだそれ、すげぇな!」
「いや、でももう今日はこの2つしか出せないなー」
「は、まだほかにも出せるのかよ!?」

うん、炎とか植物とかも一応出せるよ、と付け加えて言うと黄色少年は口をあんぐりと開けて呆然としてしまった。

「あーでもね、制限があるし、まだぜんっぜんびっくりするぐらい自分の個性を使い切れてなくてさ!さっきも咄嗟に思いついて電気を筋肉に流せばいけるんじゃないかなぁとか思ったんだけど……」
「俺も、電気出せるんだ」
「そうなの!?」
「そんなことやったことねぇよ!!」

呆然としていた黄色少年だったが、私のやり方は結構無謀なことだったのか爆笑し始めてしまった。……天才的な閃きだったと思ったんだけどな、私。いきなり恥ずかしくなってきたが、どうすることもできないので「そんなに笑わないでよ!」と抵抗したが声が裏返って逆効果になってしまった。どんだけ笑うんだ、こいつ!

「ひー、笑った笑った……」
「一生の不覚……まだまだだなぁ、私」

まだまだ私は人の助けがあって今日を生きているみたいです。いつか恩返しできるように。自立できるように。さっき先生に言われた言葉も肝に銘じて強くなろう、と誓った。

「あ……そういえばタイムなんだったんだろうな」
「あ、」

涼村 芹 は、
攣ったこと に 気を取られすぎて タイム を 聞き逃した ようだ!



 

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