「まー、お前なら大丈夫っしょ!」

黄色少年はキラキラとした笑顔でフォローをしてくれた。顔を上げれば太陽が少年の後ろからひょっこり顔を出していて、黄色の髪の毛を照らしていた。あまりの眩しさに目の奥がズキズキと痛む。木陰の中で慣れた目には充分すぎる光の量だった。

「あ、ありがとう」
「お前、名前なんて言うんだ?」
「涼村芹だよ」
「涼村か!よろしくな!」

俺、上鳴電気!という彼はやはり眩しかった。差し出された手を見て、あ、握手を求められてるのかな、と思い優しくふわりと掴んだ。ん?なんだかパリッときたぞ?と心配したの束の間バリバリバリと私のひらに刺激が走り、声にならない悲鳴を上げた。あれ、これで今日2回目。

「〜〜っ!?」
「ちょ、待て待て涼村、いてえいてえ!!」

バチンバチンと収まることのない電気に焦せる。
手を離すどころか逆に思わず強く握ってしまい、上鳴くんと一緒に手が感電してしまう。やばい、腕もビリビリしてきた!

「な、なになになに!?めっちゃ、ほ、放電し、てあいだだだだ!!無理無理無理!!」
「〜〜!!バカっ!」

ばちこーん!

そんな音がきっと似合う。だって側から見たら何やってんだあいつらって感じだよ。ほらもう紫色のショートヘアの子を呆れた顔でこちらを見ている。女の子は両手を使って私と上鳴くんの頭を叩いたみたいだ。

「ちょっとあんた達……大丈夫?」
「あ……耳郎……」

いてて、と言いながら上鳴くんは手をさする。ゆっくりとお互いの手が離れれば、私はそのまま木に背を預けた。今だにピリピリとする手を涙目で眺める。な、何が起こったのか。さっぱりだ。
心配そうに私の顔を覗き込みながら大丈夫?と少し低めなアルト。

「ごめんね、叩いちゃって」
「う、ううん!大丈夫!」
「いってて……」
「上鳴」

あんた手差し出した時に放電してたでしょ、とピシャリと言い放った。
……What?今なんと……?
あ、バレたー?みたいな顔をして上鳴くんは続けた。

「だって涼村!めちゃめちゃしょげてたんだぜ!」
「……ふーん」
「だからびっくりさせたら元気になるかなって思って」
「はあ、発想がいかにもこの間まで中学生でしたって感じ」
「んだと耳郎!」
「とりあえず謝りなさいよ」

うっ、と上鳴くんが呻く。
確かに、それが本当なら事の発端は上鳴くんかもしれない。しかし、多分ビックリさせるぐらいならこんなに強くならないはず。ならば……恐らくこれは。

「あ、でも!見ての通り手はまだちょっと痛いけど、上鳴くんの優しさがつ、伝わったよ!それに……」

たぶん、あそこまで放電したのは私のせいなんだわ……としょげていうと2人がえっと同時にこちらを見る。

「電気がはしってるを見て、どんどん知らない間に強くなったらどうしようって考えちゃって、多分それで電気増強しちゃったんだ、と思うんだよね……」

涼村、やっぱりすごいんだな……とポツリと上鳴くんが呟いた。

「むしろごめん!私がもっと冷静になってればああなってなかったと思うんだ……」
「いや、俺も悪かった!いきなりこんなビックリ仕掛けようとして……!」
「それは許すまじ!」
「嘘だろオイ!」

上鳴くんのノリがよすぎてついつい悪ふざけをしてしまった。
そんなけらけらと笑ってる私達を見て耳郎さん?はため息をついた。

「(もしかしたらこの子、上鳴と同じ部類なのかもしれない)」
「何はともあれ!」
「電気同盟たんじょー!」
「……やっぱり同類だわ」

勢いよく立ち上がって上鳴くんとハイタッチをすれば、なんでそうなったと言わんばかりの耳郎さん?の顔。やだなあ、もっとおめでとうみたいな顔してよー!でも感電した後のハイタッチはやはりちょっと痛かった。

「ところでさ!お名前、耳郎さんっていうの?」
「!……うん、耳郎響香っていうんだ」
「響香ちゃんね!よい名前……!私、涼村芹っていうんだ!」

よろしくね!っとニコっ笑いかけながら言えば響香ちゃんも優しく笑ってくれた。嬉しい。

「そーいや、体力テスト、まだあるだろ?足、大丈夫なのかよ」
「うんうん!もう大丈夫だよ!最下位は阻止しなければ……」
「え、芹、それ信じてるの?」
「「えっ!?」」
「上鳴もかよ。そんなこと、するかねえ」

うーむ、確かに?でもあの先生、合理的合理的ってよく言ってるから本当にこいつは必要ないなって思ったら迷わず切り捨てちゃいそうだよなあ。……あれ、その判断基準なら、私、結構やばい…んじゃないか?
記録は確かに割といい結果を残してはいるけど、結局終わった後誰かに助けてもらったり、苦言をもらってしかいない気がする。最下位じゃなかったとしても、使い物にならないと判断されそうだぞ。

「まーた!悩んだ顔してるよ!」
「そんなに思い詰めなくても、大丈夫だよ」
「そうだぜ、まだ2種目しかやってないしよ!」

そっか、まだまだ挽回できるか。よくないな、このマイナスに考える癖。
不安だけど、ここにきた以上、やるしかない。何度もそう思っただろう、私。進まなければならないんだよ、私。

「……ごめんごめん!後何の競技やるのかな、って心配になっちゃって!」
「あー、確かにあとメジャーなのっていえば握力テストとか、反復横跳びとかだよな」
「そうだね、まあ焦らずにやっていこうよ」

そういう2人はとても心強くて、不意になんだか泣きたくなってしまった。いやいや、まだこれからだぞ、しっかりしろ、涼村!ばちんと両頬を叩けばビックリした顔で2人がこちらを見た。

「……やっぱり、さっきの50m走といい、今の行動といい、芹は突拍子もないね」
「な」
「その言葉は褒め言葉として受け取らせていただく!」
「大丈夫か?また電気だした手でビンタしてないか?」
「過去の傷をえぐるのはやめたまえ!」

きしゃー!と威嚇すれば2人から優しい笑いが飛んできた。え、ここもっと笑うところよ?
恥ずかしくなって、「さ、さーいくぞー!」とどもってしまった。ああ早くあの2人の笑みから抜け出したい!そそくさと逃げるように次の種目の場所へと小走りで向かった。

「……芹はほっとけないねえ」
「わかるわー。フラフラしてて、なんか子供見てるみてえ」
「上鳴も十分子供だよ」
「お前何歳だよ!」

と後ろで会話をしていたのを私は聞こえなかった。

 

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