雑渡たちが学園長の部屋の天井裏に移動を終えたのは、ちょうどナマエが学園長に自己紹介を終えた直後のことだった。
板の隙間から部屋を見下ろすと、茶を啜る2人の頭が見えた。

「いいぞ。4年生に入学でどうじゃ」
「えっ。私もう14歳ですけど」

校門前で何度も練習した成果なのか、既に学園長に何らかの思惑があるのか、自己紹介をして入学金を払ったナマエは賄賂までは払わずに入学を許可されたようである。

「5年生のくノ一の授業は一気に難しくなるからのう⋯⋯。それにお主のカリスマ性、ワシの若い頃にそっくりじゃ。4年生は個性の強いのが多いが、お主なら馴染めるじゃろう」
「ちなみにどんな方がいるんですか?」
「お主の目で確かめると良い。い組の生徒に学園内の案内を頼んでおこう」
「はい!」
「その生徒は戦輪の使い手じゃが、お主は何か得意なことはあるかな?」

上手い質問だ。得意なことや趣味にはその者の育ちが出る。琴を楽しむならそれを買える程度には裕福な家柄の娘であり、生け花を好むのであればどのような花を使うのかで住んでいる場所も大体見当がつく。
さて、彼女は何者か——。

「得意なこと⋯⋯は、特にないです。何もできなくて、八方斎にお世話になってばっかりで⋯⋯。今日も八方斎に可哀想なことをしちゃいました」
「ほう?何があったんじゃ?」
「天井をお化け屋敷風にしてみたんです。せっかくだから部屋にハリボテの井戸を作ってそこから貞子っぽく登場したら盛り上がるかな?って思って練習してたら、八方斎、腰抜かして朝ずっと立てなくなっちゃってた⋯⋯」
「なんと⋯⋯。ところで貞子とは?」
「貞子は貞子です。呪いのビデ⋯⋯絵巻から飛び出してくる恐怖の怨念です。Woo〜、きっと来る〜、きっと来る〜季節は白〜く〜」
「その歌なんか怖いからやめてくれんかの?」
「八方斎にも同じこと言われました」

しょんぼりと少女が肩を落とすと、学園長は腕を組んで天井を見上げた。
まるで、裏に潜んでいる人物がいることを見破っているかのように。

「そういえば怖い天井裏といえば、ドクタケ城の天井には鞠男の霊が出るとかで、一時期話題になっておったのう」
「え!ちゃんと忍者来てたんだ!」
「鞠男の霊に心当たりが?」
「霊じゃなくて配管工のおじさんです。忍者の人もアトラクションっぽい天井の方が楽しいかなって思って作ってみたけど、ネズミがたくさん引っかかったって八方斎が大変そうにしてたからやめました」

⋯⋯あれはこの娘の仕業だったのか。潜入任務に楽しさは不要なので、おもてなしの精神はぜひ別のところに向けてほしい。

「ネズミのう⋯⋯。ワシも大きなネズミに困ったらお主に天井裏をいじってもらおうかの」
「専門の業者にお願いして殺鼠剤撒いてもらった方がいいのでは?」
「ほっほっほ。ま、得意なことはこれから見つけて行けばよい。困ったことがあったら周りに聞きなさい」
「はい!学園長先生、入学許可ありがとうございます!」

八方斎や大川学園長が指す「ネズミ」の正体をまるで知らない様子の彼女は、14歳の少女らしく花の綻ぶように笑った。
成程、尊奈門の言う通り可憐で成長の楽しみな娘である。


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