どうしよう。早くも浮いている。

焼き魚定食の乗ったお盆を持って広く空いている席に座り、隣の席で他の忍たまが談笑しているのを眺めながら、ナマエは今更ながらに自分の状況を自覚した。

もともと変わった時期の編入で薄っすら浮いていたけれど、この前の夜の恋バナ以来、くのたまたちと余計に見えない壁が出来てしまった気がするのは気のせいだろうか。
女子同士の絆を深められる一大イベントだと張り切って好みのタイプを答えたのに。

「そんなに変かな。八方斎が好きなの」
「変じゃないとも。この私、平滝夜叉丸の向かいで食べれば八宝菜でもなんでも、この食堂のご飯は全ておいしく感じるさ」

ご飯の話じゃなくてドクタケ忍者の稗田八方斎の話なんだけどな⋯⋯と思いながら向かいに座った男を見る。
平滝夜叉丸先輩。同学年なのに「先輩」と呼びたくなるのは、転生前にテレビで見ていた印象が強いからだろう。
私が知っている忍たまのキャラクターは乱太郎・きり丸・シンベエと土井先生、山田先生、理吉さんくらいだと思っていたので、学園の案内役としてこの人が出てきた時はびっくりした。
あれは確か10日前——。



「君が4年生に編入してきたくノたまだね?この私、4年い組の平滝夜叉丸が君を案内しよう」

自己紹介を始めた男の顔を見て、思わず指を差しそうになった。

この人見たことある。
乱太郎たちにちょいちょい絡んでくるめんどくさい先輩だ。

くのいちも遠目に見える同年代っぽい上級生の男子も知らない顔ぶればかり。オマケにくのいちはちょっとした会話からしっかりと個人情報を抜いていこうとするから下手なことは喋れない。
そんな中で見たことのある人が出てきてくれるなんて!

「すごい!本物の忍たまだ!!滝夜叉丸先輩!握手してください!」
「いいだろういいだろう!本来ならこの滝夜叉丸と握手なんて滅多に出来ないことだが今日は入学祝いということで特別に⋯⋯」

すごい。握手しながら流れ落ちる滝のように1人で喋り続けている。この喋りは本物の、テレビで見た、あのウザい先輩だ。

「本当に本物!滝夜叉丸先輩、あの武器クルクルするやつできますか?」
「戦輪のことかな?できるとも!なぜなら忍術学園一の戦輪の使い手といえば!この!平滝夜叉丸のことだからね!」
「すごーい!!本当にクルクルしてる!さすが滝夜叉丸先輩!」
「そうとも!フハハハハハ!」

ヒュンヒュン言ってる刃物を回しながら手元見ないでドヤ顔向けてくるってすごい。こっちに飛んでこないかヒヤヒヤしながら滝夜叉丸先輩をガン見していると、クルクルを止めた先輩は満足そうにドヤ顔で腕を組んだ。

「君、なかなか見る目があるじゃないか!困ったら忍術学園ナンバーワンのこの私、平滝夜叉丸を頼りたまえ」

はい先輩と返事をした後も、滝夜叉丸先輩はペラペラペラペラと恐ろしく回る口で学園内を案内してくれた。




あの日以来、滝夜叉丸先輩はポツンになっている私を見つけるとこうして気さくに話しかけてくる。自分大好きトークが多いのに、意外と世話焼き気質らしい。

「時にナマエ、もう委員会は決まったのかな?」
「はい。保健委員会になりました」
「保健委員会ィ!?不運の!?」
「不運?」

何それ。
隙あらば自分語りを繰り出す先輩に思いきりかわいそうなものを見る顔をされて、そんなにまずい委員会なのかと息を呑む。

「そうとも!不運な生徒が集まると言われている不運な委員会だ!」
「ええ⋯⋯」

やることが多いとか大変とか、そういう話かと思っていたのにまさかの運。

「運だけで物事決まらないですよ。大丈夫大丈夫」
「君は保健委員たちの不運っぷりを知らないからそんなことが言えるんだ!」

そう言われてもな。
この時代に運とか神とか悪霊とかの仕業だったものは、いずれ科学で説明できるようになる。
科学の時代を生きた記憶のある私に、運がどうとか言われても。
実際、私には科学の粋を詰め込んだ天才秘密兵器があるから大丈夫だ。

「大丈夫ですよ。ハポちゃんがいますから」
「ハポちゃん?」
「これです」
「!?」

ハポちゃんを見せた途端、滝夜叉丸先輩が味噌汁をブーっと吹き出してむせた。

「ゲホッゴホッ!なっなんだそれは!」
「ハポちゃんです。見てくださいここの縫い目。ここ、いっつもちょっとほつれちゃうんですけど、このハポちゃんは上手に縫えました!」
「縫い目はどうでもいいっ!なんで顔から手足が生えてるんだっ!?しかも顔の主張が強い!!」

八方斎のぬいぐるみ、ハポちゃん。
ポコポコの眉毛、ぱっちりつり目、ちょびヒゲ。顔は八方斎の特徴を詰めこんだらこうなったのだ。顔から手足が生えてるのは語呂が某バレーボールのキャラクターに似ているからそれに寄せて作ったんだけど、この世界にバ◯ちゃんはいないから説明しにくい。

「ハポちゃんは球技の妖精だからです」
「妖精⋯⋯?悪霊の類じゃないか⋯⋯?」

先輩がキショい虫を見かけた女子高生みたいな顔でハポちゃんを見る。
失礼な。ハポちゃんはすごいんだぞ。

「中に磁石と鉄板が入ってるから曲者に狙われてもハポちゃんが守ってくれるし、虫除けの薬が入ってるから虫にも刺されない!さすがハポちゃん!ハーブの香り〜聖徳太子〜〜」
「なんだその妙な歌は!?」
「なんでしょう?聖徳太子の歌?」
「私に聞くな!」

だって私もこの歌よく知らないし。
ハポちゃんの頭部からほのかに香るハッカの香りをクンクンして先輩が食べ終わるのを待っていると、「君って奴は⋯⋯」と先輩が疲れたため息をついた。 



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