「ああ、ナマエちゃんっ⋯⋯!」
トイレに駆け込んだSAIは、先程ナマエに向けられた言葉と表情を思い出しながら、うっとりと目を細めた。
『妾腹の犬の分際で、私の隣に並ぼうなんて図々しい』
ひどい言葉だった。冷たい目つきだった。でも——。
「可愛かったなぁ⋯⋯」
ナマエちゃんの表情を思い出すと、もう何遍かの熱いため息が口から溢れた。
言った直後、後ろめたそうに伏せられた瞳。我慢するように引き結ばれた小さな唇。それら全部がナマエちゃんの本当の気持ちを示していて、全身がゾクゾクと興奮した。
どうしてかは分からないけれど、ナマエちゃんは僕に嫌われようとして、わざといじわるを言ったんだ。あの表情、本当は僕に嫌われたいなんて思っていないのに。
小さい頃から、ナマエちゃんが何を考えているのか僕には分からなかった。ナマエちゃんはお父さんが大好きで、お父さんが1番で、自分の好きを全然話さなかったから。
初めてゲームのIDを教えてくれた時だって、ナマエちゃんはあのゲームが好きだったわけじゃなくて、僕と話しかけるきっかけ作りにプレイしていただけだった。僕と仲良くしろってお父さんに言われて、仕方なく。
いつだってそうだった。ナマエちゃんが僕と仲良くするのは、お父さんに言われたから。結婚だって、子作りだってそうだ。ナマエちゃんは僕には気づかれていないと思ってるけれど、僕はずっと前から気づいてる。ナマエちゃんが僕と一緒にいてくれるのは、お父さんのためなんだって。
でも、でも違った!
僕にわざといじわるを言って、自分が言ったことなのに、僕を見てちょっぴり泣きそうになってたナマエちゃん。
ナマエちゃんも、ちゃんと僕を見て、僕のことを愛してる!
そうとも。石化さえなければナマエちゃんと僕は結婚していたはずで、赤ちゃんだって作って家族になっていたはずだった。優しくて流されやすいナマエちゃんだから、家族になってしまえばきっと僕をちゃんと愛してくれた。
石化で少し順番が変わってしまっただけで、ナマエちゃんは僕と家族になる。
「早くっ、僕がお迎えに行ってあげないとねっ」
きっとナマエちゃんはまだいじわるを言ったことにしょんぼりしているだろうから、「全然気にしてないよ」って言ってあげるんだ。ナマエちゃんが石化から初めて目覚めたあの夜みたいに、今度は僕がナマエちゃんに「一緒に帰ろう」って言って小さな手を引こう。
そんなことを考えながらラボに戻ってくると、船の上にいるはずのヤツが目の前にいて、僕は大絶叫をあげた。