「実家の都合で偶然パーティーに出ていまして」
「それにしたって、こんなご立派なリムジン1人で使うん?」
「来る予定だったいとこがドタキャンしたんです。彼が女性数名と使う予定だったこの車が余ったので、せっかくだから使わせていただきました」
「ンな偶然あんだね」
「ええ本当に。ところでドクター・ゼノ、もう一枚ブランケット被りますか?」
「おお、すまないね」
「もう少しで暖かくなりますからね」
ハンガーにかけられ、水の滴る服と、ブランケットに包まれた僕。そう、今僕はブランケットの下にパンツ一枚だ。雨に濡れても髪型も化粧も崩れていない、ドレスアップしたナマエと自分の差に、流石に羞恥心というものを禁じ得ない。
ブランケットを足したナマエの手が、するりと頰を撫でる。母親が子供の熱を確かめるような手つきの心地よさに目を瞑る。
「お二人ともご自宅はどちらに?」
「あー、ちょい遠いから近くのホテルで頼むわ」
「おそらくそれなりのところはどこも満室です。明後日、朝から大きな国際会議があるそうなので」
困ったことだ。ホテルは満室。家に帰るにしても、この雨量では通行止めの道路が出て来るだろう。
「良かったら、うちに来ますか?男性2人には手狭かもしれませんが、ゲストルームをお貸しできます」
「何から何まですまないね⋯⋯」
「決まりですね。今から少し電話しますが、何かお困りでしたらすぐお声がけください」
彼女の言葉に頷くと、感情を表に出すことの少ない彼女にしては珍しく、ほっと安堵に緩んだ顔をした。
離れたところで何者かに電話をし始めた彼女を尻目に、スタンが脇腹を小突く。
「すげえじゃん、ゼノ。逃すなよ、彼女」
「そういった揶揄いはよしてくれと言ったはずだ」
「悪い悪い」
やはり悪いとは思っていなそうな幼馴染はこれまでになく愉快そうに唇を吊り上げていた。
「私の家、少し変わってますが気にしなければ大丈夫です」
彼女の言葉は気になったが、ゼノの体力がそろそろ心配だ。
毛布でぐるぐる巻きになった親友の唇がプールに入った後のような薄紫のなっているのを心配しながら、スタンリー・スナイダーは家の玄関前に立つ七海ナマエの指先を見つめた。
カードキー、暗証番号、指紋認証。その何れも反応がなく、ドアの鍵が開く気配がない。
「SAI、意地悪しないで。開けないなら私、この2人とリュウスイの車の中で一晩過ごすことになるけど、いいの?」
子供を叱るような口調で彼女が認証キーに向かって喋りかけると、カシャンと錠の回る音がした。
え、まさか今ので鍵開いたんかと驚いていると、ドアがひとりでに開いて行った。
「大変お待たせしました。ドクター、スナイダーさん。どうぞお入りください」
「なんで俺らが先?」
「この感じだと私が入った瞬間、お二人が締め出されるかもしれないので」
「なるほどね」
分かったような分からないような不思議な理屈に頷きながら、ゼノの手を引いて中に入る。後から続いてナマエが入ってきた瞬間、扉が閉まり、玄関と廊下に灯りが灯った。
「エレガントだ⋯⋯!」
目を輝かせてフラフラと歩き出したゼノの前へ、するりとナマエが踊り出る。
「ドクターゼノ、まずはこちらのバスルームへ。ゲストルームにはシャワー後ご案内します」
「単純な人感センサーではなく特定の人物の声に反応するプログラムなのかな?実にエレガントだ」
「ドクター、後でいくらでもご案内しますから、早くシャワー浴びてきて下さい。本当に風邪を引きます」
案内されたバスルームとは違う方へトコトコ歩いて行こうとするゼノをふん捕まえて、彼女はそのままゼノをバスルームへと押し込んだ。丁寧で物腰は柔らかいが、意外と実力行使に躊躇がない。
そしてさっきから携帯のバイブ音がひっきりなしになっている。
「出なくていいん?」
「そのうち落ち着くから問題ありません。SAI、お二人のおもてなしを手伝ってください。早く済んだら今日はゆっくりお話ししましょう」
彼女が天井に向かって言うと、天井の灯りがライブ会場のように変わるがわる色を変えた。まるで、喜びを表しているみたいに。
「おお!綺麗に光るね。エレガントだ」
「ドクターゼノ!貴方はさっさとお風呂に入る!⋯⋯もう、スナイダーさん、2人で入るには少し手狭ですが、念のためドクターについていてくれませんか?」
「そうだね、その方が良さそうだ」
「スナイダーさん!服は脱衣所で!」
半乾きでへばり付いているライダースーツの上を脱ぐと、ナマエはほんの少し顔を赤くしてバスルームを指差した。
淡々としているが、そういうトコは純情らしい。揶揄ったら面白そうだが、まだそういった間柄ではないので上げた手を軽く振って大人しくゼノと同じくバスルームへ向かった。