最近杜王町にできたアイスクリーム屋はなんと早朝から営業していて、登校途中についつい引き寄せられてしまうことがままあった。
今日も例外ではなくて、ワッフルコーンにストロベリー&チョコチップというアイスクリームを乗せて食べるところだ。この店の一番人気は意外にも抹茶味らしいけれど、私にはこの二番手が合っている。
学生が寄ることは珍しくないようで、また1人制服姿がやってきた。
(わ…改造学ランってやつ?気合い入ってるなあ……)
それにしても、男一人、ましてや不良然とした学生が朝からアイスクリームのメニューを見てうんうん唸っているのはなんというか、面白い。ギャップってやつだろうか。
甘いもの好きな不良。そう思うと何故か目の前の大きな背中も怖さを感じなくなり、気づいたら話しかけていた。
「ストロベリー&チョコチップ、おすすめだよ」
「いやあ、一個はいちごって決まってんだよォ……もう一つをどうすっかなって…んん?」
素で返事をしてしまったのだろうか、やっと怪訝な顔を向けられる。思いの外彼は目つきが悪く私は顔が引き攣ったが、それも一瞬だった。
だって、あの三白眼は、あの不思議な顔の痕は。あの間延びした口調は。
「食べてみてーのはスイカだけどよ〜やっぱレモンかなあ〜」
またメニューに視線を戻した彼の言葉についに息が止まった。
あの夏に味わった酸味が蘇り口いっぱいに広がる。
「……レモンがすっぱかったから、余計いちごがあまい」
「お!だよなぁ、不思議だよなアレ」
一番すきな組み合わせなんだよ、と彼の肩が上下した。
「ウシ!おばさん、レモンといちご!」
「あらぁー虹村くん!はいよー」
二段に重ねられたアイスクリームを受け取ると、彼は振り返る。
初めて真正面から彼を捉える。
「アンタよォ〜」
「……えっ!」
「とけてんぜ?食べねーのかァ?」
私のストロベリー&チョコチップは溶けて指にまで落ちてきていて、そんなことにも気づかずに私は彼を見つめていたのかと思うと頬に熱が集まった。
「それもうめーよな〜」
チョコチップがちびっと苦ぇけど、それがいいんだよな〜。と言う彼の声を遠くで聞きながら、熱に浮かされた私は意識が飛びそうなのをなんとか踏みとどまり、これ以上垂れないようにアイスクリームをなめた。
「……たべる?」
「えっ!……いいのかあ?」
ああ、あの時の彼のように反対側からかぶりつくことができたなら。もしくは、麦わら帽子でも被っていたなら、彼は私のことを思い出してくれただろうか?それとももう思い出ですらない過去になってしまっているだろうか。
けれど、それでも、
彼の曇りない笑顔が、私に向いた。それだけで。
それだけで。
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00-2再会
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2016- やぶさかデイズ
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