やぶさかデイズ

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D+S / mp100 / Minor
BIZARRE DREAM
弾丸論破サーチ

星とすっぽん

 人生なにがあるかわからない。
 平凡な人生をそれなりに歩んできた私が、最近になってそんなことを思うようになったのには理由がある。
 『私の彼氏は空条承太郎』。ただその一言で察してほしい。
 これが大ごとでなかったらなんだと言うのか。名字家末代まで語り継がれるかもしれない、とにかく私の人生で一番の波が、大波乱が、今起こっている。まだ誰にも空条くんとのことは話していないから、実際には語り継がれる予定は今のところないけれど。
 
 
 事の発端はつい先週。兼ねてから恋い焦がれていた空条くんに、私から告白した。なにも、付き合えると踏んで想いを告げたわけではない。もちろん、あわよくば何かの手違いで良い仲になれたらどんなに幸せだろう、と考えなかったわけではないけれど、一番の目的は『諦めるため』だった。
 話したこともない、話しかける勇気もない私には、このまま卒業まで空条くんを見つめているだけの恋なんて辛すぎる。空条くんには迷惑をかけてしまうけれど、それならいっそスッパリ振ってもらって「いい思い出でした、青春をありがとう、チャンチャン」なんて締めくくりをしたかった。それなのに。
 
『すきです!』『…………。』ああまさか返事もしてもらえないとは。でも仕方ないよね、自分の満足感のためだけに告白して空条くんには迷惑をかけてしまってるんだから……。『それで?』それで。それで!?恥を塗り重ねなくてはいけないの!?どうせ振るというのにこれ以上の言葉を求めるなんて空条くんは思っていたよりも嗜虐心のある人なのだろうか。ああでもたしかに好きと言われただけじゃ何も答えることはない……かもしれない。
『で、できれば付き合っていただきたいです……。』『いいぜ』『………………………………んっ、えっ?』
 
 受け入れられるとは露ほども考えていなかった。一連の出来事が現実だと理解できた頃には、彼は背を向けて歩き出していた。
 
 一応、付き合うことになった、らしい。が、それから数日が経ってもいまいち実感が湧くようなイベントがない。
 今だって、一緒に下校しているはずなのに彼と私の間に5mは距離がある。いつもの取り巻きのみなさんがいるせいだ。
 本当に、大人気の彼。
 
 
 
 
 
 空条くんは、高校入学当初からそれはもうおモテになっていた。日本人離れしたルックス、スタイルに加えて硬派な気質。女の子たちは大体彼に一度は夢を見ているのではないだろうか。
 私はと言うと、実は始めは空条くんのことが苦手だった。
 クラスメイトだけれど、寡黙すぎて何を考えているのかわからないし、不良然とした出で立ち。恐かったのだ。
 有名な人だから興味だけはあったけれど、自分から接触しようとは一切思わなかった。
 
 けれどある日、登校中の空条くんを見かけてから私の世界は一変した。
 
 気持ちのいい朝、前を歩く背中は珍しく一人。家を出たばかりなんだろうか。足の長い彼に追いつくことはないにせよ、知り合いの後ろに着いて歩くのは気まずい。
 どうしたものか考えあぐねていると、歩を進める私の足元に白い何かが出現した。

「(……空条くんの落し物!?)」
 
 落とした瞬間は見ていない。けれど、前を歩くは彼一人。それに、拾い上げてみれば皺一つないハンカチだ。今地面に着いたばかりな可能性は高いだろう。
 いや、あの不良がハンカチを持ち歩くだろうか。こんな純白のハンケチーフを。
 大きな後ろ姿にハンカチをかざして見比べてしまう。あまりに似つかわしくない。
 でも、空条くんのものなら渡してあげないといけないし、違ったら謝ればいい話だ。怖いけれど、いくらなんでも声をかけた瞬間殴られるようなことはないだろう。多分。
 
「空条くん!」

 駆け寄って声をかけると、首が動く。肩越しに、透き通った瞳が私を射抜いた。ああやはりこわい。
 勇気を出して、ただ右手に持ったこれを差し出すだけでいい。瞳から目を離せないまま、尋ねてみる。
 
「空条くん。ハンカチ、落とさなかった?」
 
 声が震えているのが自分でもわかる。
 空条くんのまぶたがほんの少し見開かれ、すぐに元に戻る。
 
「ああ。……ありがとう。」
 
 世界が変わった。
 振り返り、ハンカチを受け取る無骨な手に、私を真っ直ぐ見据える瞳に、ニッと上がった口角に、その優しい声色に、恋をした。
 
 
 
 
 
「私が好きになるのは仕方ないことだったけど……空条くん、私のことが好きなわけじゃないよね、きっと。」
 
 どうせ女の子たちの黄色い声にかき消されるので、独り言を零す。
 もしかして「付き合ってください」をそこらへんの百貨店に行くので付いてきてください、くらいの意味だと思ってるんじゃないだろうか。だとしたらとんだ天然だ。付き合っていると思ってるのは私だけなのか。
 それは冗談としても、もう少し何かが起こってもバチは当たらないのに。周りの子を追い払って、「俺の女はこいつだ」なんて宣言して、私の手を引く……とか。なんて、期待が過ぎるか。
 斜め前で女の子に囲まれている大男に目を遣る。
 あ、そろそろ怒る。
 ここ数日でわかってきたのは、彼の怒りの沸点くらいなものだ。
 
「うっとおしいぞ!!」
 
 綺麗な顔を歪めて怒号を発する。当の彼女達は慣れたもので、甘ったるい声で返事をしている。
 
「お前も、なんでそんなところにいるんだ。」
「へっ、私……?」
 
 居ちゃいけなかったのか。一緒に帰っているつもりだったのだけど、私もお邪魔だったようだ。
 きつい物言いに息が詰まる。平静を装って謝ろうとしたが、その前に詰め寄ってきた空条くんによって二の腕を掴まれる。
 後ろで取り巻き達の不満げな声が聞こえる気がするけれど、それ以上に自分の鼓動がうるさい。
 ああ、普通体型な私の二の腕は、空条くんを囲んだ美少女達に比べれば随分肉付きがいいだろうなこれならダイエットに励んでおくんだった。でももう遅い、彼は私の二の腕を凝視している、きっと「太すぎる、これは腕か?」なんて思われているんだ。
 我に返ったのかどうなのか、空条くんはパッと離した手を学帽の鍔に持っていった。より深くなった顔の影で、表情は見えない。
 行くぞ、と言う心地よい低音が響く。一緒に行ってよかったんだ、と胸を撫で下ろす。
 あれ、じゃあ、さっきの言葉は「なんでそんな(離れた)ところにいるんだ」って意味だった……と解釈してしまっていいのだろうか。
 希望的観測を確かめたい私を置いて、空条くんは歩き出す。
 やっと2人になれたのだから、何か話したい。かといって共通の話題は……ない。けれどこのまたとないチャンスを逃す訳にいかない。
 
「く、空条くん、今度のお休みにでも、デートしませんか。」
「……デート?」
 
 聞き返されてしまった。え、デートするような仲ではなかったでしたっけ、すみません。
 勝手に周りをちょろちょろしてる女にいきなりデートに誘われた、といった感覚だろうか。それは怖い。
 
「ごめん、なんでもな」
「そうだな。どこに行きたい。」

 私が自身の発言を無かったことにしようとすると、歩を進めながら視線だけ寄越して肯定してくれる。思わず見上げてみるけれど、詰襟が邪魔で口元は見えない。それでも聞こえた声は笑みを孕んでいた気がして、こっちの口元が緩んでくる。その様子は隣の彼からは丸見えだろうけれど、どうにも一度幸せを感じてしまうと隠せない。
 
 水族館、と呟いた私を、今度こそしっかりと振り返って「ああ、行こう」と薄く笑う空条くんに、また恋をした。

リクエストは「付き合いだしてそんなに経っておらず、モテモテの承太郎にもやもやする話」でした。
星屑様、リクエストありがとうございました!
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2016- やぶさかデイズ